もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
その後、私と久実は学園の中にある脱衣所に連れてこられた。ヤツからタオルの入った大きめの籠をふたつ渡される。
「まずはその汚れを落としてもらおうか」
ヤツの視線は久実に向けられていた。確かに、今の久実は服も染みだらけで外に出るのもはばかられる。事情を察した久実はこくんと頷いた――が、ひとつ解せないことがある。
「何で私も籠渡されなきゃならないわけ?」
「おまえは特に汚れを落としてこい」
「は? 何それ」
意味の分からない言葉に私は眉をひそめた。
「制服そんなに汚れてないし。トマトの臭いだって――」
「トマトじゃない。汗と埃だ。特に頭が酷い」
ヤツに言われ、私は昨日お風呂に入ってなかったことを思い出した。あとで着替えを持ってこさせるから、とだけ言うとヤツが部屋の外へ出る。言い当てられた私は急に恥ずかしくなった。くそーっ。
私はぶつぶつと文句を言いながら服を脱ぐとタオルを持って浴室に入った。
暁学園の浴室は案の定、とても広い。シャワーの台数も多いし普通の浴槽の他に露天風呂もある。あとはジャグジーとか薬草風呂とかサウナとか。ええと、どこの温泉ですかここは。
大理石の洗い場で体を流したあとで私は改めて久実に謝罪する。先に浴槽につかっていた久実はううん、と首を横に振った。
「私だって招待したのと違う人間が入ったら怒られるかもしれないってのは覚悟してたから――まさか、こんなことになるとは思いもしなかったけどさ」
「……ごめん」
「気にしないで。だってナノちゃん、私を助けてくれたじゃん」
ありがとね、の言葉に私はちょっとだけ救われる。色々あったけど、久実に笑顔が戻ってよかったと心から思った。
体も心もすっきりした所で、私達はお風呂から上がった。ヤツが用意させたというバスローブを手にとるけど――
「あれ?」
私は首をかしげた。脱いで置いておいた制服がないのだ。汚れているとはいえ制服は制服。あれがないと困るのに。
すると突然部屋の扉が開かれた。私達は慌ててバスローブを着こむ。二人で手を取り合うと入ってきた相手を威嚇する。入ってきたのは私たちよりもふた回りはいっているだろう女性だった。
「な、何か……」
「入浴は済まされましたか?」
「は、あ」
「ニシさまに頼まれましてまいりました。私こういう者です」
そう言ってスーツ姿の女性は名刺を差し出した。そこには有名な高級ブランドの名前が記されている。彼女は営業スマイルで私達にこう伝えた。
「先ほどニシさまから連絡がありまして、お二方に似合う服を用意して欲しいと頼まれました」
さあこちらへ、と女性は隣りにある部屋へと案内する。そこは多分体育の着替えに使われる更衣室、なのだろう。壁に服が絵のように飾られている。異動式のハンガーがいくつもあり、服が下げられている。
キャスターのついた引き出しには下着から靴下から小物、果ては靴まで。更衣室がウオークインクロゼットに大変身だ。
「この中から好きなものを自由に選んで下さい」
「え? いいんですか?」
「はい。お代はニシ様からすでに頂いているので」
その気前の良さに私達は思わず顔を見合わせた。私はハンガーにかけられた服をいくつか掴んでみる。マネキンが着ているワンピースを見た久実が、えっ、と声をあげた。
「この服、今日雑誌で見たやつじゃん」
「それは秋の新作ですね。色違いもございますが試着してみますか?」
女性の言葉に久実は是非、と興奮気味に答えた。るんるん顔で試着室に入っていく。
私はといえば服の山に圧倒されて、どれを選んでいいのかわからなかった。もともとファッションに執着はないしワードローブは専らTシャツとパーカーだし。だからこんなキラキラやフリルを見ると目がくらむ。
それでもなんとか頭を回転させて無地のシャツとパンツを選択した。久実はその後も別の服を試したようだけど、結局最初に着た柄もののワンピースに決めたらしい。更に女性が髪も整えましょうか?と言ってきたので私達は好意に甘えることにした。念入りにブローされたおかげで、私の寝癖頭は綺麗なストレートに変化する。
「おお、よく似合うではないか」
突然ヤツの声が聞こえてきたので、私は肩を揺らした。いつの間にいたのだろう、久実の隣りにヤツがいるではないか。
「まずはその汚れを落としてもらおうか」
ヤツの視線は久実に向けられていた。確かに、今の久実は服も染みだらけで外に出るのもはばかられる。事情を察した久実はこくんと頷いた――が、ひとつ解せないことがある。
「何で私も籠渡されなきゃならないわけ?」
「おまえは特に汚れを落としてこい」
「は? 何それ」
意味の分からない言葉に私は眉をひそめた。
「制服そんなに汚れてないし。トマトの臭いだって――」
「トマトじゃない。汗と埃だ。特に頭が酷い」
ヤツに言われ、私は昨日お風呂に入ってなかったことを思い出した。あとで着替えを持ってこさせるから、とだけ言うとヤツが部屋の外へ出る。言い当てられた私は急に恥ずかしくなった。くそーっ。
私はぶつぶつと文句を言いながら服を脱ぐとタオルを持って浴室に入った。
暁学園の浴室は案の定、とても広い。シャワーの台数も多いし普通の浴槽の他に露天風呂もある。あとはジャグジーとか薬草風呂とかサウナとか。ええと、どこの温泉ですかここは。
大理石の洗い場で体を流したあとで私は改めて久実に謝罪する。先に浴槽につかっていた久実はううん、と首を横に振った。
「私だって招待したのと違う人間が入ったら怒られるかもしれないってのは覚悟してたから――まさか、こんなことになるとは思いもしなかったけどさ」
「……ごめん」
「気にしないで。だってナノちゃん、私を助けてくれたじゃん」
ありがとね、の言葉に私はちょっとだけ救われる。色々あったけど、久実に笑顔が戻ってよかったと心から思った。
体も心もすっきりした所で、私達はお風呂から上がった。ヤツが用意させたというバスローブを手にとるけど――
「あれ?」
私は首をかしげた。脱いで置いておいた制服がないのだ。汚れているとはいえ制服は制服。あれがないと困るのに。
すると突然部屋の扉が開かれた。私達は慌ててバスローブを着こむ。二人で手を取り合うと入ってきた相手を威嚇する。入ってきたのは私たちよりもふた回りはいっているだろう女性だった。
「な、何か……」
「入浴は済まされましたか?」
「は、あ」
「ニシさまに頼まれましてまいりました。私こういう者です」
そう言ってスーツ姿の女性は名刺を差し出した。そこには有名な高級ブランドの名前が記されている。彼女は営業スマイルで私達にこう伝えた。
「先ほどニシさまから連絡がありまして、お二方に似合う服を用意して欲しいと頼まれました」
さあこちらへ、と女性は隣りにある部屋へと案内する。そこは多分体育の着替えに使われる更衣室、なのだろう。壁に服が絵のように飾られている。異動式のハンガーがいくつもあり、服が下げられている。
キャスターのついた引き出しには下着から靴下から小物、果ては靴まで。更衣室がウオークインクロゼットに大変身だ。
「この中から好きなものを自由に選んで下さい」
「え? いいんですか?」
「はい。お代はニシ様からすでに頂いているので」
その気前の良さに私達は思わず顔を見合わせた。私はハンガーにかけられた服をいくつか掴んでみる。マネキンが着ているワンピースを見た久実が、えっ、と声をあげた。
「この服、今日雑誌で見たやつじゃん」
「それは秋の新作ですね。色違いもございますが試着してみますか?」
女性の言葉に久実は是非、と興奮気味に答えた。るんるん顔で試着室に入っていく。
私はといえば服の山に圧倒されて、どれを選んでいいのかわからなかった。もともとファッションに執着はないしワードローブは専らTシャツとパーカーだし。だからこんなキラキラやフリルを見ると目がくらむ。
それでもなんとか頭を回転させて無地のシャツとパンツを選択した。久実はその後も別の服を試したようだけど、結局最初に着た柄もののワンピースに決めたらしい。更に女性が髪も整えましょうか?と言ってきたので私達は好意に甘えることにした。念入りにブローされたおかげで、私の寝癖頭は綺麗なストレートに変化する。
「おお、よく似合うではないか」
突然ヤツの声が聞こえてきたので、私は肩を揺らした。いつの間にいたのだろう、久実の隣りにヤツがいるではないか。
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プロフィール
HN:
和
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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