もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
「スタイルもいいから服も映える。文句ないチョイスだ」
ヤツの褒め言葉は久実に向けられていた。それを知って私はそっと胸をなでおろす――がっ。振り返ったことでヤツとばっちり目が合ってしまった。私の口があ、と開く。ヤツは私の頭から先をひととおり見た後で非常に残念な顔をした。
「地味だな」
分かってはいたけれど、それをヤツの口から聞くとひどくムカついて仕方がない。
「色気とはあまりに程遠い。あいつのように服の色を明るくするとか肌を露出しようとか考えないのか?」
久実と引き合いにされた私は悪かったわねぇ、と毒を吐く。
「これが私には一番しっくりくるんです。それよりも制服は? 脱衣所になかったんだけど」
「制服は後日クリーニングして返すが、今着ている服は持って行け。ゲームの参加賞だと思えばいい」
「あっそ」
私はそっけない返事をする。その裏でちょっとだけ感心していた。私はてっきり学校のジャージとかを貸したりするのかと思っていたのだ。
「ずいぶん粋なことをするじゃない」
「部外者の服を汚させたまま返すのは学園の名が汚れるからな」
「なるほど」
俺様ではあるけど、一応学校の体面は考えているらしい――と思ったのもここまでだった。
「よし、着替えも済んだことだし、出掛けるか」
「どこ行くの?」
また学園を案内するのかと私が問うと、否、とヤツは言った。
「ここから車で一時間ほど行った所に馴染みの店があるから。食事に行くぞ」
「行くぞ、って私らも? ここではいサヨナラじゃなくて?」
「上等の服を着ているのなら相応の店で食事するのも悪くない。何か問題でも?」
えーえー、大ありですよ。
「あんた一応生徒会長なんでしょ? 文化祭を勝手に抜けて大丈夫なわけ?」
「文化祭の主導は実行委員長が握ってる。俺のやることはほとんどない。それにもろもろの業務も『身代わり』と副会長たちがやってくれているからな」
ヤツが悪びれもなく言うから私はあいた口がふさがらない。でもそれを聞いて妙に納得できてしまった。ああそうだ、ここにはヤツに身代わりがいてもおかしくないんだと。それを考えるとこれまで不自然さが急に当たり前に思えてしまった。
「行くのか? 行かないのか?」
ヤツに示された二択に行きますっ、と即答したのは久実だ。えええっ、と驚く私に顔を近づけこれはめったにないチャンスよ、といつぞやの台詞を囁く。
「わざわざ向こうから誘って来てるのよ、美味しいもの食べれるのよ。しかもタダ! 行くならいつ? 今でしょ!」
久実の目はとても輝いている。キラキラしすぎて取り付くしまもない。私は頭をと垂らした。わかったわよ。こうなったら最後まで付き合おうじゃないの。
私達はニシの案内で来た道を再び戻る。最初に訪れたエントランスから外にでると、前に黒塗りのベンツがつけていた。それは確かに、私が以前放りこまれた(?)車と同じナンバーで、一瞬だけ私の脳裏に当時のことが蘇る。そういえばあの時捕まった人達はどうなったんだろう? 警察に連れてかれちゃったみたいだけど――やっぱり強制送還なのかしら?
そんなことを思いつつ後部座席へ乗りこむ。L型になったふかふかのシートに座ると、すぐに執事のような人からようこそ、と声をかけられティーカップを渡された。前回とは大違いの対応だ。中の紅茶に私は口をつける。
「それにしても、先ほどのヒガシの走りっぷりは見事だったな」
突然褒められた私は持っていた紅茶を落としそうになる。がちゃん、と大きな音が車内に響いた。
「ヒガシは何かスポーツでも――」
「してないわよ」
私は速攻話をへし折った。だが隣りにいた久実が飛んできた言葉をキャッチしてしまう。
「ナノちゃんは元々足が速いんですよ。五〇メートルだって七秒ちょっとで走っちゃうし。新入生の時は運動部からの勧誘がすごくて」
「ほぉ」
「でもナノちゃんそれ全部断っちゃったんだよね」
「くぅーみぃ」
私はたしなめるような声を上げる。ちょっとだけ睨むと久実ははぁーい、と肩をすくめた。
「そーゆーの苦手だっていつも言ってるでしょ」
「でもさあ、特技を褒められたら嬉しいとかもっと目立ちたいって普通思わない? ナノちゃんはその辺の感覚が壊れてるというか、変だよ」
久実にばっさり斬られた私はぐっと言葉を詰まらせる。そりゃ、褒められたら悪い気はしないわよ。私自身もそれらしい反応を示している。だけど、周りから見たらどうも薄いらしい。
「親友としては、ナノちゃんはもっと周りから評価されて欲しい所なんだけどな」
「ほお」
私達の話を聞いていたヤツから興味深げな声がかえってきた。
「おまえたちはやはり親友なのか。いつからだ?」
「ええとナノちゃんと話すようになったのは中学のキャンプからで――」
「ちょ、そんなことまで話さなくてもいいじゃない」
「えー『さわり』くらいなら構わないと思うけどなぁ。別にナノちゃんのあーんな恥ずかしいこととかこーんな失敗とかは言わないし。ねぇ会長さん」
「個人的にはそのくだりも聞いてみたい所だが、今日の所は我慢してやってもいい」
「さっすが。会長さんは話がわかる」
「当然のことだ」
ヤツは上機嫌でふんぞりかえる。おいおい。そんなドヤ顔されても困るんですが。
私ははあ、とため息をついた。久実は普段私が嫌だと思う事はしてこない。今も止めて、と強くいえば口をつぐんでくれるだろう。でも今日はそれが言いづらかった。私のせいで一度泣かせてしまったから尚更。だから勝手にしなさいよ、とだけ行ってそっぽを向くのがせいいっぱいだ。
私は冷めかけた紅茶を一気に飲み干した。しばらくは肘をつくフリをして肩耳を隠したり窓から見える景色を眺めていたけど、何せ二人の声が大きくて話が駄々漏れだ。話の花が幾つも咲いている。それと気のせいだろうか、久実の話をヤツがノリノリで聞いているような気が――ああ、いかん。聞こえないフリ聞こえないフリ。
ゆっくり瞼を閉じて目の前の景色を消す。最初はタヌキ寝入りを装っていたが、そのうち本気で眠くなる。ああ、そういえば今日は携帯に叩き起こされたんだっけ。ここに来てからもずっと気を張り詰めていたし。久実を救出してほっとしたのかな? 今は体がだるくて仕方ない。
私は手元の時計で時間を確認した。車に乗ってからまだ十分位しか経ってない。目的の場所まではまだかかるようだ。小さなあくびを噛みしめ窓に肩を寄せる。
ヤツの相手は久実に任せておこう――
そんなことを思いながら私はひと時の休息を入れた。
ヤツの褒め言葉は久実に向けられていた。それを知って私はそっと胸をなでおろす――がっ。振り返ったことでヤツとばっちり目が合ってしまった。私の口があ、と開く。ヤツは私の頭から先をひととおり見た後で非常に残念な顔をした。
「地味だな」
分かってはいたけれど、それをヤツの口から聞くとひどくムカついて仕方がない。
「色気とはあまりに程遠い。あいつのように服の色を明るくするとか肌を露出しようとか考えないのか?」
久実と引き合いにされた私は悪かったわねぇ、と毒を吐く。
「これが私には一番しっくりくるんです。それよりも制服は? 脱衣所になかったんだけど」
「制服は後日クリーニングして返すが、今着ている服は持って行け。ゲームの参加賞だと思えばいい」
「あっそ」
私はそっけない返事をする。その裏でちょっとだけ感心していた。私はてっきり学校のジャージとかを貸したりするのかと思っていたのだ。
「ずいぶん粋なことをするじゃない」
「部外者の服を汚させたまま返すのは学園の名が汚れるからな」
「なるほど」
俺様ではあるけど、一応学校の体面は考えているらしい――と思ったのもここまでだった。
「よし、着替えも済んだことだし、出掛けるか」
「どこ行くの?」
また学園を案内するのかと私が問うと、否、とヤツは言った。
「ここから車で一時間ほど行った所に馴染みの店があるから。食事に行くぞ」
「行くぞ、って私らも? ここではいサヨナラじゃなくて?」
「上等の服を着ているのなら相応の店で食事するのも悪くない。何か問題でも?」
えーえー、大ありですよ。
「あんた一応生徒会長なんでしょ? 文化祭を勝手に抜けて大丈夫なわけ?」
「文化祭の主導は実行委員長が握ってる。俺のやることはほとんどない。それにもろもろの業務も『身代わり』と副会長たちがやってくれているからな」
ヤツが悪びれもなく言うから私はあいた口がふさがらない。でもそれを聞いて妙に納得できてしまった。ああそうだ、ここにはヤツに身代わりがいてもおかしくないんだと。それを考えるとこれまで不自然さが急に当たり前に思えてしまった。
「行くのか? 行かないのか?」
ヤツに示された二択に行きますっ、と即答したのは久実だ。えええっ、と驚く私に顔を近づけこれはめったにないチャンスよ、といつぞやの台詞を囁く。
「わざわざ向こうから誘って来てるのよ、美味しいもの食べれるのよ。しかもタダ! 行くならいつ? 今でしょ!」
久実の目はとても輝いている。キラキラしすぎて取り付くしまもない。私は頭をと垂らした。わかったわよ。こうなったら最後まで付き合おうじゃないの。
私達はニシの案内で来た道を再び戻る。最初に訪れたエントランスから外にでると、前に黒塗りのベンツがつけていた。それは確かに、私が以前放りこまれた(?)車と同じナンバーで、一瞬だけ私の脳裏に当時のことが蘇る。そういえばあの時捕まった人達はどうなったんだろう? 警察に連れてかれちゃったみたいだけど――やっぱり強制送還なのかしら?
そんなことを思いつつ後部座席へ乗りこむ。L型になったふかふかのシートに座ると、すぐに執事のような人からようこそ、と声をかけられティーカップを渡された。前回とは大違いの対応だ。中の紅茶に私は口をつける。
「それにしても、先ほどのヒガシの走りっぷりは見事だったな」
突然褒められた私は持っていた紅茶を落としそうになる。がちゃん、と大きな音が車内に響いた。
「ヒガシは何かスポーツでも――」
「してないわよ」
私は速攻話をへし折った。だが隣りにいた久実が飛んできた言葉をキャッチしてしまう。
「ナノちゃんは元々足が速いんですよ。五〇メートルだって七秒ちょっとで走っちゃうし。新入生の時は運動部からの勧誘がすごくて」
「ほぉ」
「でもナノちゃんそれ全部断っちゃったんだよね」
「くぅーみぃ」
私はたしなめるような声を上げる。ちょっとだけ睨むと久実ははぁーい、と肩をすくめた。
「そーゆーの苦手だっていつも言ってるでしょ」
「でもさあ、特技を褒められたら嬉しいとかもっと目立ちたいって普通思わない? ナノちゃんはその辺の感覚が壊れてるというか、変だよ」
久実にばっさり斬られた私はぐっと言葉を詰まらせる。そりゃ、褒められたら悪い気はしないわよ。私自身もそれらしい反応を示している。だけど、周りから見たらどうも薄いらしい。
「親友としては、ナノちゃんはもっと周りから評価されて欲しい所なんだけどな」
「ほお」
私達の話を聞いていたヤツから興味深げな声がかえってきた。
「おまえたちはやはり親友なのか。いつからだ?」
「ええとナノちゃんと話すようになったのは中学のキャンプからで――」
「ちょ、そんなことまで話さなくてもいいじゃない」
「えー『さわり』くらいなら構わないと思うけどなぁ。別にナノちゃんのあーんな恥ずかしいこととかこーんな失敗とかは言わないし。ねぇ会長さん」
「個人的にはそのくだりも聞いてみたい所だが、今日の所は我慢してやってもいい」
「さっすが。会長さんは話がわかる」
「当然のことだ」
ヤツは上機嫌でふんぞりかえる。おいおい。そんなドヤ顔されても困るんですが。
私ははあ、とため息をついた。久実は普段私が嫌だと思う事はしてこない。今も止めて、と強くいえば口をつぐんでくれるだろう。でも今日はそれが言いづらかった。私のせいで一度泣かせてしまったから尚更。だから勝手にしなさいよ、とだけ行ってそっぽを向くのがせいいっぱいだ。
私は冷めかけた紅茶を一気に飲み干した。しばらくは肘をつくフリをして肩耳を隠したり窓から見える景色を眺めていたけど、何せ二人の声が大きくて話が駄々漏れだ。話の花が幾つも咲いている。それと気のせいだろうか、久実の話をヤツがノリノリで聞いているような気が――ああ、いかん。聞こえないフリ聞こえないフリ。
ゆっくり瞼を閉じて目の前の景色を消す。最初はタヌキ寝入りを装っていたが、そのうち本気で眠くなる。ああ、そういえば今日は携帯に叩き起こされたんだっけ。ここに来てからもずっと気を張り詰めていたし。久実を救出してほっとしたのかな? 今は体がだるくて仕方ない。
私は手元の時計で時間を確認した。車に乗ってからまだ十分位しか経ってない。目的の場所まではまだかかるようだ。小さなあくびを噛みしめ窓に肩を寄せる。
ヤツの相手は久実に任せておこう――
そんなことを思いながら私はひと時の休息を入れた。
PR
プロフィール
HN:
和
HP:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
最新記事