もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
小学六年生頃から父は家に帰って来なくなった。どうやら外に女ができたらしい。でも父は世間体を気にして母と別れようとはせず、自由になれない母はそのストレスを私にぶつけた。暴力とかではない。自分の趣味を娘にぶつけることで心のバランスを保っていたのだ。
まだ親のすねをかじっていた私は母の理想と向き合うしかなかった。母の髪が長かったので、私は短かった髪を伸ばし初めた。買い物に一緒に行くと母が好む服をあえて選んで買った。乱暴な言葉は使わず、他人の前では礼儀正しい娘を演じていた。父がいつか戻ってくるだろう、そんな淡い期待を抱きながら。
でもそれは五年後に崩れた。いつの間にか母も新しい男を作っていたのだ。私が学校に行っている間、母は男との時間を楽しんでいたらしい。偶然目にした私は最初こそ怒りで震えたが、そのうちこれは本当の自分に戻れるチャンスだと思った。五年間の重石はあまりにも苦しくて今にもつぶれそうで――私自身もそこまで追い詰められていたのだ。
昨日母は友達と旅行(って言ってたけど相手は男だろう)で家を空けたので、私はこれまでに貯めたお金で美容院と眼鏡屋に走った。私は新しく生まれ変わる。私は「私」として自分の足でこれからの人生を歩む。もう親なんかいらない。母の人形にはならないのだ。
翌日、私は颯爽と学校へ向かった。髪を短くして明るい色に染め、縁の入っていた眼鏡を外してコンタクトに変えた。制服のスカートも短く詰めた。長ったらしい挨拶を止めて皆と同じ「おは」で挨拶をすませる。私の劇的変化にクラスの誰もが驚いていた。ぽかんと口を開けた後、はっとしたような顔をしてどうしちゃったの? なにかあったの? と口々に言われる。そのたびに私は苦笑を浮かべるしかなかった。
事情を説明すればすごい重たく感じるだろうし、同情されるのはもっと嫌だ。だから私はなんとなく、の一言で終わらせてしまう。もうこれは皆の方が慣れてもらうしかない。そう思った矢先、
「おっ! 見慣れないヤツと思ったら笙子じゃん。ずいぶんさっぱりしたじゃねえか」
勇敢に声をかけてきた猛者がいた。小学校からの幼馴染である新太だ。今はクラスが違うけど、忘れ物大王は時々私の教科書やノートを借りに来る。新太はいつもの口調で私に声をかけてきた。
「数学のノート貸して。今日当たるんだ」
「やだ」
私は速攻で断る。周りにどよめきが走ったのは、これまで私がにこにこ笑って貸したからだろう。新太は一度目をぱちくりとさせたが、すぐににやりと笑う。なんだか嬉しそうだ。
「えー、そこをなんとか。帰りに名福堂の大福奢るから」
「……しょうがないなぁ」
私はひとつため息をついてから廊下にいる新太の所へ向かう。ノートを渡すと新太が私をじっと見つめた。私の頭に手を置き、ぽんぽんと叩く。
「短くしたのって小学校以来か?」
「まあね。どう?」
「前よりこっちの方が似合う。笙子『らしい』よ」
「ホント?」
とびきりの褒め言葉にわたしは満面の笑みをこぼす。新太の言葉を聞いてようやく「呪い」から解放された、そんな気がした。
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プロフィール
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自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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