もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
彼は慣れないヒールで転びそうになった私を彼は正面から抱きとめてくれた。
「あ、ありがとう……」
情けない恰好ではあったけど、私は背の高い彼にお礼の言葉を述べる。すぐにその腕から解放されるものだと信じて疑わなかった。
けど――
ふっと目があった次の瞬間、彼の腕が力強く私を引き寄せる。
突然のことに私は小さな悲鳴を上げた。彼にすっぽりと包まれてしまった私に沢山の疑問符が湧く。
唯一自由のきく顔を上向きにすると、背の高い彼の顔が見える。その瞳は真っ直ぐに私を見据えていて、熱を帯びていた。
彼の真剣な眼差しはこれまで何度も見たけれど、今目の前にいる彼はそのどれにも当てはまらない。
見たことのない彼の一面に私の体温が急上昇する。胸がどきりと疼いた。
ゆっくりと彼の顔が私に近づいてくる。強く抱きしめられた私はその場から動くこともできず、声も上げられない。その位私は動揺していた。
お互いの息づかいがはっきり聞こえる所まで近づいて、彼の動きが一度止まる。その唇が嫌? と問いかける。
正直、この瞬間でそんな質問投げかけないで、と思った。
流石の私もこの距離でこれから何が起こるのか、想像できないほど鈍感じゃない。
彼の目を見ることができない私は雨上がりの土に目を落とした。鼻先に土の香りがふわりと届く。
私は考えた。偶然とはいえ、彼と抱き合う恰好になってしまったこの状況。
何も言わなければ私の唇など、いとも簡単に奪えたはずだ。でも彼は私に触れることを一度躊躇った。もしかしたら彼の中にある理性が、それを踏みとどまらせたのかもしれない。
彼は私に何があったのかを知っている。たぶん、私の気持ちを気づかって――だから嫌なのかと聞いてきたのだろう。
私はまだ、己の気持ちが分からない。過去の柵から抜けだすことができたのか、それすら分からない。
でも今繋がれている手は離したくないと思った。この手を離したらきっと後悔する。そんな気がした。
私は少しだけ目を伏せて、首を横に振る。心臓がどくどく波打って、それがとてもうるさくて、彼が返事をしたのかどうかもわからない。
否、返事なんてものはもともとなかったのかもしれない。
体を強張らせた私の頬に彼の手がそっと触れた。顔を持ち上げられた私は再び彼の顔を目の当たりにする。
今までで一番近い場所で見る彼の瞳は穏やかで優しい。
できればその目をずっと見ていたい――そう思ったけど、流石にそれは恥ずかしくて。私は瞼を閉じることに集中した。
キスされる直前のあれやこれや。固有名詞は使わなかったけど、あの二人のそう遠くない未来の話。
「あ、ありがとう……」
情けない恰好ではあったけど、私は背の高い彼にお礼の言葉を述べる。すぐにその腕から解放されるものだと信じて疑わなかった。
けど――
ふっと目があった次の瞬間、彼の腕が力強く私を引き寄せる。
突然のことに私は小さな悲鳴を上げた。彼にすっぽりと包まれてしまった私に沢山の疑問符が湧く。
唯一自由のきく顔を上向きにすると、背の高い彼の顔が見える。その瞳は真っ直ぐに私を見据えていて、熱を帯びていた。
彼の真剣な眼差しはこれまで何度も見たけれど、今目の前にいる彼はそのどれにも当てはまらない。
見たことのない彼の一面に私の体温が急上昇する。胸がどきりと疼いた。
ゆっくりと彼の顔が私に近づいてくる。強く抱きしめられた私はその場から動くこともできず、声も上げられない。その位私は動揺していた。
お互いの息づかいがはっきり聞こえる所まで近づいて、彼の動きが一度止まる。その唇が嫌? と問いかける。
正直、この瞬間でそんな質問投げかけないで、と思った。
流石の私もこの距離でこれから何が起こるのか、想像できないほど鈍感じゃない。
彼の目を見ることができない私は雨上がりの土に目を落とした。鼻先に土の香りがふわりと届く。
私は考えた。偶然とはいえ、彼と抱き合う恰好になってしまったこの状況。
何も言わなければ私の唇など、いとも簡単に奪えたはずだ。でも彼は私に触れることを一度躊躇った。もしかしたら彼の中にある理性が、それを踏みとどまらせたのかもしれない。
彼は私に何があったのかを知っている。たぶん、私の気持ちを気づかって――だから嫌なのかと聞いてきたのだろう。
私はまだ、己の気持ちが分からない。過去の柵から抜けだすことができたのか、それすら分からない。
でも今繋がれている手は離したくないと思った。この手を離したらきっと後悔する。そんな気がした。
私は少しだけ目を伏せて、首を横に振る。心臓がどくどく波打って、それがとてもうるさくて、彼が返事をしたのかどうかもわからない。
否、返事なんてものはもともとなかったのかもしれない。
体を強張らせた私の頬に彼の手がそっと触れた。顔を持ち上げられた私は再び彼の顔を目の当たりにする。
今までで一番近い場所で見る彼の瞳は穏やかで優しい。
できればその目をずっと見ていたい――そう思ったけど、流石にそれは恥ずかしくて。私は瞼を閉じることに集中した。
キスされる直前のあれやこれや。固有名詞は使わなかったけど、あの二人のそう遠くない未来の話。
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プロフィール
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和
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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