もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
文化祭まで数日後と迫った放課後、私たちのクラスではHRの時間を利用して教室を飾りつける花や看板を作っていた。
私は何枚も重ねた花紙を蛇腹に折って中心をホチキスで留める。それを他の女子が紙を扇状に広げて一枚一枚引き出す。形を整えたら愛らしい花の出来上がりだ。女子総勢で作っているので机の上はすぐに沢山の花であふれてしまう。
看板作りを任された。旧校舎の音楽室で校庭に掲げる看板を作成していて、今この教室にいるのはニシと斉藤くんだけだ。彼らは廊下に置く小さな看板に色をつけている。黄色の背景に抜きだした文字を二人は赤と黒のチェックで彩っていた。
頃合いを見て私は動き出した。
「そういえば視聴覚室の遮光カーテン使っていいって担任に言われてたんだ。久実、悪いけど取りに行ってもらっていい?」
「ナノちゃんは?」
「私これが終わったら別の用事頼まれちゃっててさ……ああ、カーテン取るのに男子一人連れて行った方が楽かもよ。できれば背の高い人とか」
「そう?」
久実は看板作りをしている男子二人を見据えた。迷わず背の高いニシを呼ぶ。
「ニシぃ。カーテン取りにいくの手伝ってくれる?」
久実に呼ばれ、ニシが作業の手を止める。二人が揃って教室を離れた。斉藤くんが一人になった所を狙って私は近づいた。
「斉藤くん。こっち手があいたから手伝うよ」
「おお、助かるよ」
私はバケツに入っていた筆を取る。指示された場所に赤い線を引いた。あのさ、と小声で斉藤くんに話しかける。
「その、ニシ――くんってどんな感じ?」
「思ったよりも話しやすいヤツだな」
「そう?」
「時々鼻につくことも言うけど、育った環境のせいって思うと納得できる範囲だし――何? ニシのことが気になるの?」
「ううん。そういうわけじゃないけど。この間斉藤くんとは気が合うみたいなことちらっと言ってたから」
それを聞いて斉藤くんが驚いたような声を上げる。身を乗り出してきたので私はこくりと頷いた。
でも気が合うというのは嘘だ。
私はニシの行動にほとほと困っていた。友達でも何でもないのに友情を押しつけられ、通っている学校も転校して――全ては私の為だという。これははっきり言って迷惑だ。でもニシは私が何を言っても首を縦に振らないだろう。一度手にした「親友」(といってもヤツの思う意味にかなりの語弊があるのだが)を手放すもんかと必死だ。
だったら残る選択肢はひとつ。
ニシの「友達がいない」という弱みを逆に利用することだ。
題して「ともだち100にん作戦」である。
この作戦、まずはニシにこの学校で私以外の人間と友達になってもらう。そしてその人間のつてをたどってもらい新たな人間関係を築いてもらうのだ。友達が沢山できれば私のことなど、かすんで見えなくなるだろう。
この作戦を遂行するにあたって、欠かせない要素が斉藤くんである。
枯れはクラスのムードメーカーで典型的なスポーツ少年。本来はバスケ部所属だけど、時々運動部の助っ人としてあらゆる試合に出ている。運動部の中ではかなり有名で――つまり顔がとても広いのだ。
また彼の性格はとても単純で人情深い。常に熱い心を持っていた。青春を謳歌するんだというポリシーは時に暑苦しいけど、こういったイベントの際はいい起爆剤になってくれる。普段から面倒見も良い彼はクラスメイトから慕われている。斉藤くんがニシの友達――いいや、親友認定されればこれほど嬉しいことはない。彼なら強靭な精神でニシに関わるトラブルを乗り越えてくれるだろう。
私は必死になって斉藤くんをその気にさせようとあることないことを吹きこんだ。
「転校してきた自分に良くしてくれてすごい感謝してたよ。斉藤くんは本当に優しいなって。前の学校じゃこんなに面倒見のいい人はいなかったってさ」
「へえ……そうなんだ」
褒められて嬉しいのか、斉藤くんはまんざらでもない顔だ。私はダメ押しの台詞を放つ。
「私もね、二人見てるといいコンビだなーって思えるんだよね。こう言うと語弊があるかもしれないけど運命の出会いっての? 彼は斉藤くんにとって一生の友達になるんじゃないかなーって思うんだけど」
すると斉藤くんの筆がぴたりと止まった。黄色い絵の具が段ボールにぽたりとしたたる。体が完全停止したので私はどきりとする。
やっぱり、寒かったかな? 言葉滑った?
そんなことを思ってひやひやしていたらようやく斉藤君が口を開いた。しかも、いやぁ実は俺も同じことを思っていたんだ、と言ってくるではないか。しめた、と私は思う。
ちょうどその時、久実とニシが暗幕の入った箱を持って教室に戻ってきた。
「あれ? ナノちゃん今度はそっち?」
「作業終わったからこっち手伝ってた。久実もやる?」
そう言って私は筆を差し出した。久実がそれを受け取り、ニシも自分の作業に戻る。四人で看板を完成させた。
作業の間はニシをスルーして、久実や斉藤くんと他愛のない話をする。たまに斉藤くん視線をチェックした。
斉藤くんは何か喋るたびにニシに同意を求めてる。それにニシが頷くと満足そうに笑っている。明らかに斉藤くんの中でニシという存在が膨れ上がった証拠だ。
よし、このままもっと仲良くなれ。そして芋づる式に友達をもっと作りやがれ。
私は筆を動かしながらこっそり微笑んだ――
私は何枚も重ねた花紙を蛇腹に折って中心をホチキスで留める。それを他の女子が紙を扇状に広げて一枚一枚引き出す。形を整えたら愛らしい花の出来上がりだ。女子総勢で作っているので机の上はすぐに沢山の花であふれてしまう。
看板作りを任された。旧校舎の音楽室で校庭に掲げる看板を作成していて、今この教室にいるのはニシと斉藤くんだけだ。彼らは廊下に置く小さな看板に色をつけている。黄色の背景に抜きだした文字を二人は赤と黒のチェックで彩っていた。
頃合いを見て私は動き出した。
「そういえば視聴覚室の遮光カーテン使っていいって担任に言われてたんだ。久実、悪いけど取りに行ってもらっていい?」
「ナノちゃんは?」
「私これが終わったら別の用事頼まれちゃっててさ……ああ、カーテン取るのに男子一人連れて行った方が楽かもよ。できれば背の高い人とか」
「そう?」
久実は看板作りをしている男子二人を見据えた。迷わず背の高いニシを呼ぶ。
「ニシぃ。カーテン取りにいくの手伝ってくれる?」
久実に呼ばれ、ニシが作業の手を止める。二人が揃って教室を離れた。斉藤くんが一人になった所を狙って私は近づいた。
「斉藤くん。こっち手があいたから手伝うよ」
「おお、助かるよ」
私はバケツに入っていた筆を取る。指示された場所に赤い線を引いた。あのさ、と小声で斉藤くんに話しかける。
「その、ニシ――くんってどんな感じ?」
「思ったよりも話しやすいヤツだな」
「そう?」
「時々鼻につくことも言うけど、育った環境のせいって思うと納得できる範囲だし――何? ニシのことが気になるの?」
「ううん。そういうわけじゃないけど。この間斉藤くんとは気が合うみたいなことちらっと言ってたから」
それを聞いて斉藤くんが驚いたような声を上げる。身を乗り出してきたので私はこくりと頷いた。
でも気が合うというのは嘘だ。
私はニシの行動にほとほと困っていた。友達でも何でもないのに友情を押しつけられ、通っている学校も転校して――全ては私の為だという。これははっきり言って迷惑だ。でもニシは私が何を言っても首を縦に振らないだろう。一度手にした「親友」(といってもヤツの思う意味にかなりの語弊があるのだが)を手放すもんかと必死だ。
だったら残る選択肢はひとつ。
ニシの「友達がいない」という弱みを逆に利用することだ。
題して「ともだち100にん作戦」である。
この作戦、まずはニシにこの学校で私以外の人間と友達になってもらう。そしてその人間のつてをたどってもらい新たな人間関係を築いてもらうのだ。友達が沢山できれば私のことなど、かすんで見えなくなるだろう。
この作戦を遂行するにあたって、欠かせない要素が斉藤くんである。
枯れはクラスのムードメーカーで典型的なスポーツ少年。本来はバスケ部所属だけど、時々運動部の助っ人としてあらゆる試合に出ている。運動部の中ではかなり有名で――つまり顔がとても広いのだ。
また彼の性格はとても単純で人情深い。常に熱い心を持っていた。青春を謳歌するんだというポリシーは時に暑苦しいけど、こういったイベントの際はいい起爆剤になってくれる。普段から面倒見も良い彼はクラスメイトから慕われている。斉藤くんがニシの友達――いいや、親友認定されればこれほど嬉しいことはない。彼なら強靭な精神でニシに関わるトラブルを乗り越えてくれるだろう。
私は必死になって斉藤くんをその気にさせようとあることないことを吹きこんだ。
「転校してきた自分に良くしてくれてすごい感謝してたよ。斉藤くんは本当に優しいなって。前の学校じゃこんなに面倒見のいい人はいなかったってさ」
「へえ……そうなんだ」
褒められて嬉しいのか、斉藤くんはまんざらでもない顔だ。私はダメ押しの台詞を放つ。
「私もね、二人見てるといいコンビだなーって思えるんだよね。こう言うと語弊があるかもしれないけど運命の出会いっての? 彼は斉藤くんにとって一生の友達になるんじゃないかなーって思うんだけど」
すると斉藤くんの筆がぴたりと止まった。黄色い絵の具が段ボールにぽたりとしたたる。体が完全停止したので私はどきりとする。
やっぱり、寒かったかな? 言葉滑った?
そんなことを思ってひやひやしていたらようやく斉藤君が口を開いた。しかも、いやぁ実は俺も同じことを思っていたんだ、と言ってくるではないか。しめた、と私は思う。
ちょうどその時、久実とニシが暗幕の入った箱を持って教室に戻ってきた。
「あれ? ナノちゃん今度はそっち?」
「作業終わったからこっち手伝ってた。久実もやる?」
そう言って私は筆を差し出した。久実がそれを受け取り、ニシも自分の作業に戻る。四人で看板を完成させた。
作業の間はニシをスルーして、久実や斉藤くんと他愛のない話をする。たまに斉藤くん視線をチェックした。
斉藤くんは何か喋るたびにニシに同意を求めてる。それにニシが頷くと満足そうに笑っている。明らかに斉藤くんの中でニシという存在が膨れ上がった証拠だ。
よし、このままもっと仲良くなれ。そして芋づる式に友達をもっと作りやがれ。
私は筆を動かしながらこっそり微笑んだ――
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プロフィール
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和
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性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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