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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2014

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このシェアルームに入っている人の性別も年齢もバラバラだ。だけど皆同じ目標に向かっていて、それを叶えるために共同生活をしている。
 その日、私は休日で自分にあてがわれた部屋でごろごろしていた。
 貧乏だから遊ぶお金はない。かといって家で掃除するほどの気力はないし――というか、動くことはあまりしたくない。でも寝てばかりもつまらない。
 しばらく考えた後、共同のリビングに雑誌の山があったことを思い出した。 
 私は何もない部屋から出ると、ジャージ姿のままリビングに向かう。そこには先客がいた。貴婦人だ。
 還暦を迎えたばかりのその人は蔦谷桜子という。質のよさそうな身なりとその上品な振る舞いで皆から貴婦人という愛称で呼ばれていた。
 貴婦人は自分が入れたお茶を優雅に飲んでいる。私に気づき朗らかに笑った。
「暇だったら私とお話でもどうかしら?」
「少しだけなら」
「よかった」
 私は貴婦人の向きあう形で椅子に腰を据える。すると貴婦人が手持ちのアルバムを開いて私に見せてくれた。
 貴婦人は誰かと話をする時、このアルバムをいつも開く。小冊子程の厚さのアルバムにはこれまでに出会った人達の写真が飾られている。それぞれとの思い出を貴婦人はとつとつと、時につまらなく、時に面白可笑しく語る。
 それはまるで己の人生を語るかのような錯覚さえ覚える。
 今日私が見たのは美しい少女だった。髪を小さくまとめた踊り子。年は私と同じ位だろうか?
「彼女は両親の愛を一身に受けて育ったわ。しかも親は教育熱心で彼女は沢山の習い事をしていたの。ピアノにバイオリンに乗馬、日本舞踊にお茶と……」 
「お嬢様って感じですね」
「そうね。その中で一番長く続いたバレエはコンクールでいくつもの賞を取るほどまでになっていたわ」
 確かに、彼女は背も高く手足も長い。アラベスクのポーズを取っている別の写真なんて絵になるほど美しい。
 貴婦人の話は更に続いた。
「彼女の才能を信じた両親は娘を海外へ留学に出すことを決心したの。彼女も世界に通用するプリマになろうと羽ばたいていった――でもね。一年後、彼女は現地の男性と結婚してしまったの。親の反対を押し切って、勘当同然で」
「は?」
「一年後には子供が生まれたわ。可愛い男の子だった」
「ええと……バレエの話はどうなったんですか?」
「結婚した時すっぱり辞めたわ。つまり夢は愛に叶わなかったということよ」
 彼女はさらりと言ったけど、それは残酷に聞こえた。
「彼女は今も異国の地で夫や子供たちと暮らしている。この写真とはすっかりかけ離れてしまったけど――とても幸せみたい」
 今の話を聞いてどう思う?
 貴婦人に問われ、私は戸惑う。すぐに気のきいた言葉が出てこない。
 答えに考えあぐねている私に貴婦人は救いの手を差し伸べた。それもしごく正確な言葉を。
「納得がいかないって顔してるわね」
「まぁ……そうです、ね」
 その話を聞いた時、私は彼女の豪快な人生より彼女の両親に同情してしまった。
 だってそうじゃない。手塩にかけて育てた娘が、親の期待に答えることなくどこの馬の骨とも分からない男と結婚したのよ。そりゃ勘当したくもなるわ。
 沢山習い事をさせてこれまで娘の為に稼いだ金は何? これまでの惜しみない愛と努力はなんだったのと。
 その思いを正直にぶちまけると、貴婦人はそうね、と笑った。
「ご両親にとってはとんだ親不幸娘だって思うんでしょうね」
「でしょ?」
「でもね。どの時代も子供は親の期待を裏切るものかもしれない――あなたも心当たりあるでしょう?」
 貴婦人の指摘に私はぐっと言葉を詰まらせた。
 まさかこの人、私が家出同然でこのシェアルームに転がりこんできたってことを知ってる?
「たまには実家に連絡してみたら? 便りがないのは元気な証拠って言うけど、それってそう思わないとやってらんないって位心配してるってことなのよ」
 貴婦人はそう言うと二杯目のお茶に手をのばした。

シェアルームに住むそれぞれの事情と人間模様など。ずいぶん久しぶりの更新となりました(汗
本年もよろしくお願いします。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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