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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2025

0420
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2013

0524
 夜が明ける前に私は目を覚ました。
 最近は時計のアラームがなくてもこの時間になると目が開く。空も薄暗いこの時間、私は体を半回転し隣りにいる子どもの寝顔を眺めた。静かな寝息を聞くと、自然と口元から笑みがこぼれる。布団の海から子供の手をすくい、両手でそっと包み込んだ。小さな体から熱いものが伝わる。
 初めて子供と手を繋いだ時、体温の高さに私は驚いた。最初は熱でもあるのかと慌てたけど、子供の平熱は大人のそれよりも高いのだと聞いてほっとした――そんな記憶はまだ新しい。
 押し寄せてくる波は温かくて、少しくすぐったくて、でもとても心地よい。空っぽだった心に優しさが満ちていく。きっと、これが幸せというものなんだろう。
 このまま、ここに留まれたらいいのに――私は思う。けど私は立ち上がらなければならなかった。愛しき人の夢を守るため、私は現実を背負う。私は行かなければならない。あの喧騒とした森の中へ――
 私は簡単に食事を済ませ身支度を整える。すると寝室の扉が開いた。ベッドから起きた子供が私の所へ向かった。足にすりよる。
「もう行っちゃうの?」
 無垢な瞳に射ぬかれ、私は困ってしまった。今にも泣きそうな、そんな顔をされたら、せっかくの決心も揺れてしまう。
 私は子供の頭をそっとなでた。
「帰ってきたらまた一緒に遊ぼう」
「本当に? 約束だよ」
 私は小指を絡ませ、誓った。そのあとでぎゅうと抱きしめる。
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
 あどけない微笑みを背に私は外へ飛び出した。まだ日は昇ったばかり。湿った大地に風が吹き抜ける。その爽やかさに季節の変わり目を感じた。
「じゃ、今日もふんばりますか」
 私はぐるんと腕をまわすと、駅に向かう道を歩き始めた。(737文字)


子供を持つ親が後ろ髪引かれるように出勤する姿。

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2013

0523
 私とあの人の間には見えない壁がある。手を伸ばした所であの人には届かない。触れることも叩くこともできない。それでも私はあの人の好みを熟知していたし、今あの人が何を考えているのかも分かる。
 今日は髪の毛があまりイケてない。目に隈もできているし、肌も荒れている。こんなんじゃ大好きな「あの人」の目にも止まらない。しっかりケアしなきゃ。
 私が思うより先にあの人は顔パックを始めた。髪をすきコテで毛先を巻く。パックが乾くまでの間、あの人はクローゼットに頭だけ突っ込んで服を選んでいた。
 そうだ、この間買ったワンピースがあったでしょう? あれにしてみない?
 あの人が下ろしたての服を出す。一度部屋着の上に当て、うん、と頷いた。腕を通し、私の前に立ってからパックを剥がす。うん、とっても素敵。よく似あっている。
 あの人は美容液と乳液をたっぷりつけ下地を塗り、ファンデを乗せた。まつ毛はぱっちりと、アイカラーは服に合わせた涼しげな色で。頬紅と口紅はしつこくない色を選びましょう。
 いけない、もうこんな時間よ。急がなきゃ。
 あの人はメイク道具をポーチに入れると仕事用のバッグを手にした。あの人が扉を閉めた瞬間、私は消える。残ったのは左右反転した部屋の風景。今度あの人に会えるのは仕事から帰ってきた時だ。
 あの人はもう一人の私。私達は決して触れ合う事のない存在。それでもあの人私は心が繋がっている。(599文字)


鏡の向こう側にいる「私」が主人公。最初「化粧→服」の流れだったけど服に口紅付かね?と思い、ブログ編集画面内で書き直し。そしたら保存する前にページが変わってしまい文章そのものが消去したという(泣)さくっと書けた割にその後が大変だった話

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2013

0522
 牛車で運ばれる途中、花を見つけた。
 それは何処にでもありそうな、小さな花だった。燃えるようなその色に私の心は揺れた。風に乗って花びらが揺れると、柵のこちら側にいい香りがとびこんでくる。花はすぐに視界から消えていった。
 ほんの一瞬だったが、私はその風景を目に焼き付けた。くすぶっていた絵への情熱がふつふつとわいてくる。あの鮮やかな色をこの手で再現したいと思った。 
 ここには筆も絵の具もない。でも大丈夫だ。
 私は親指を噛みちぎる。自分の中にあふれる感性を床に叩きつけた。時に優しく、時に荒々しく。追ってくる痛みは二の次だ。今、この瞬間を逃してはならないと思った。
 私が私であった証を残したかった。
 やがて付添っていた男が私の異変に気付く。何をしている、と怒鳴られた。私は答えない。構わず絵に集中する。男は床に描かれた花を見て黙りこんだ。私を一瞥した後で勝手にしろと言う。男の温情に私は感謝した。
 脳裏に浮かぶ風景を私はひたすら描き続ける。花弁の一つ一つを身を削って記していく。それでも――
 だめだ、足りない。色が足りない。
 やがて車が止まった。
 私が連れてこられたのは大きな広場だった。木の柵が設けられ、その向こう側に人がひしめいている。私の目の前に舞台があった。舞台には柱が立ててある。横に伸びるの先に輪のついた縄がぶら下がっていた。
 私はこれから処刑される。それは抗えない事実だ。
 私は絵を書かせてくれた男に乞う。この牢の中で私の首を刎ねてほしいと。首から溢れる血全てをこの絵に注いでほしいと。
 男はしばらく考え、了承した。牢の柵を壊し、床だけを残して私ごと舞台へ運ぶ。湧きおこる歓声と非難。私は血で描いた花をそっとなぞった。この作品は己の死をもって完成する。私の魂は絵とともに生き続けるだろう。
 やがて空に大振りの剣がかざされる。その瞬間を私は静かに待った。(796文字)


処刑される(元)絵描きの終焉。私にしてはグロ入ってる方かな?

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2013

0521
 その日、私は大学の図書館に向かっていた。自習室で卒論を書くためだ。生憎自習室は席が全部埋まっていた。
 私はくるりと踵を返し、重い本棚の裏にある閲覧室の机に向かう。ここは自習室よりも狭いけど、まぁ仕方がない。
 私は本を読んでいる人の右隣に座った。机に借りてきた資料を広げ、シャーペンを握る。今書いている論文は三時までに提出しなければならない。
 私は深呼吸をしたあとで、机に向かった。
 しばらくして、昼を伝える鐘が鳴った。隣りの人が席を立つ。それから一分も立たないうちに席が埋まる。私はちらりと横を見見た。机には難しそうな資料が積まれている。見る限り、向こうも私と同じ状況らしい。
 私は自分の作業に戻った。再びペンを走らせ集中する。
 小一時間ほどして論文が佳境に入る。一気に仕上げようとペンが加速する。その時、腕に衝撃が走った。自分の腕が隣りの人にぶつかったのだ。触れた瞬間、私はしまったと思う。
「すみません」
 無意識の行動を私はすぐに謝った。隣りの男性は「大丈夫」と答える。穏やかな笑顔に救われた私は一つ呼吸を置いた。
 やばいやばい。気をつけなきゃ。私は気を取り直すとペンを持ちかえ、作業に戻る。
 それから三十分ほどで論文は仕上がった。誤字脱字がないかチェックした所で、隣りの男性が私に声をかけてきた。
「君って両利きなの?」
「え?」
「さっきまで左だったのに、今度は右で書いてたから」
「ああ」
 私は右手に握ったペンを見つめた。
「普段は左利きなんですけど、今みたいに机を並べていると、右利きの人とぶつかっちゃうんで。そういう時だけ右で書くんです」
「へぇ。左利きの人って、見えない所で苦労しているんだね」
 彼は感心したように頷いているが、私はまぁ、と曖昧な返事をする。それよりももっと気になったことがあるからだ。
「あの、そちらは大丈夫なんでしょうか?」
「へ?」
「そちらもレポートの提出あるんじゃないんですか?」
 私は彼の机に目を向ける。題名と数行だけ書いたレポートはお世辞にも進んでいるとは思えない。まさか、そっちに気を取られて進まなかったってことはないよね?
 私は一抹の不安を抱えつつ、彼の反応を待った。(923文字)


左利きの人は結構右も使える人が多いような。そんな感じで書いてたけど、やっつけ感のある仕上がりになってしまった

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2013

0520
 仕事帰りに寄ったファミレスで沙奈を見つけた。
 ここ最近忙しくて会えない、なんて聞いていただけに俺の心はときめく。久しぶりに会う恋人は相変わらず可愛い。
 俺は自分の席を立った。声をかけようと近づくが――途中で動きを止めた。彼女の前に男性が現れたからだ。
くたびれたスーツに黒い鞄。後頭部の禿げにあれ、と思う。あの独特のバーコードはめったに見ない。というか、あれは俺の親父ではないか!
 ハンカチで汗を拭きとりながら「待った?」と言う親父。「いいえ。私もさっき来た所です」と涼しげな顔で沙奈。
まるでデートの待ち合わせのような雰囲気に俺は息を呑む。
「ごめんねー、仕事がなかなか終わらなくて。ご飯はもう済んだの?」
「お腹一杯になっちゃうと動けなくなるんで――よかったらどうぞ。まだ時間もありますから」
「じゃ、遠慮なく」
 そう言って親父はハンバーグセットを注文する。食事中、親父は沙奈にこんなことを聞いてきた。
「沙奈さんは私とつき合ってて、退屈しない?」
「そんなことありませんよぉ。中井さんこそ、毎晩帰りが遅くなって、家族に怪しまれたりしませんか?」
「私は問題ないよ。子供も妻も私がいない方が静かだって言ってるし」
 じゃあ行こうか。食事を終えた親父が席を立つ、沙奈のコーヒーの分も清算すると、仲良く肩を並べて歩いた。途中、沙奈が何かを囁く。親父は照れくさそうな顔をしながら、沙奈の腕を自分の腕に絡ませた。
 うおおおおぃ。二人とも何やってるんだよ!
 俺はやきもきしながら追いかけた。やがて二人の足がとあるビルの前で止まる。その前に「不倫列車でGO」というヤバそうな店の看板があった。嫌な汗が止まらない。
 二人は腕を組んだまま階段を登ると、みすぼらしい扉の中へと消えて行った。俺の不安が頂点に達する。あの二人、この部屋で一体何を――
「あら? あなた、ここに用があるの?」
 俺が部屋に飛び込もうか悩んでいると、ケバいおばさんに捕まった。
「もしかして見学? だったらこっちじゃなくて隣りの部屋よ」
 さあどうぞ、とおばさんが俺を誘う。半ば強引に隣りの部屋へ引きずり込まれた。扉を開けた瞬間まばゆい光が襲う。壁の一面が鏡になっているせいか、部屋が実際よりも広く感じる。床に敷き詰められたフローリングがピカピカに光っていた。
 そして隣りの部屋に入ったはずの親父が何故かそこにいた。
「た、タカユキ?」
 突然現れた息子に親父は固まっていた。俺は親父の変わり果てた姿に唖然とする。更に。
「あれ? タカユキじゃない。こんな所でどうしたの?」
 奥の扉から沙奈が現れた。さっきのパンツスーツではなくひらひらのスカートを履いている。そういえばこんな服、テレビで見たことがある。あれは確か――


「まさか、中井さんがタカユキのお父さんだったなんてね」
 思いがけない縁に沙奈は笑った。フロアの中心で親父が教わったばかりのステップを必死に踏んでいる。都会の窓に浮かぶのは「ダンス教室」の文字だ。
「お姉さん、結婚するんだって?」
 沙奈の言葉に俺は頷いた。姉は来月に式を挙げる。相手はアメリカ人だ。なんでも米国では披露宴で花嫁と父親がダンスをするらしい。親父はその為に特訓していて、沙奈は姉の役を務めているのだとか。
「でもさ。これってサンバだよな? 何故にサンバ?」
「ウケ狙いたいんだって。面白いお父さんだよね」
 軽快な音楽に乗って親父が腰を振る。ぼよんぼよんと震えるビール腹。俺は笑いをこらえるのに必死だった。(1465文字)

シャルウィーダンス? な話。 沙奈とお父さんが腕を組んだのはバージンロードを歩く練習なのでした

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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