もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
競馬場の喫煙室で一服してると、出口に妻が立っていた。頬が引きつっている。当然だ。俺は休日出勤と嘘をついてここにいるんだから。
「賭けが過ぎるからしばらく競馬は控えてって言ったよね?」
「いや、気が付いたら足がふらふらと」
「嘘つけ! いい加減止めろ!」
「って言われても馬は俺の生活の一部で――あ、せっかく来たならおまえも一度やってみれば? 馬の楽しさが分かるって」
「……わかった。じゃあ一つ、賭けをしようか」
「は?」
「次のレース、一着の馬を当てたら相手の言う事を何でも聞く。これでどう?」
その条件に俺は乗った。勝った時に言うのは決まっている。相手はギャンブルとは無縁の人間、負ける気がしなかった。
俺は競馬新聞を睨む。色々考えた末、手堅い一番人気でいくことにした。配当金は雀の涙ほどだが、要は当たればいいこと。
俺が券売機に向かうと、先にいた妻に券を渡された。
「もし私が勝ったらその券自由に使って。そのかわり競馬とは縁を切ってね」
俺は彼女の買った馬券を見る。単勝大穴狙いで投資額は一万円。勝てば万馬券だが無茶にもほどがないか?
俺は首をかしげつつ、券を買い会場へ向かう。ファンファーレが鳴りひびきゲートが開かれた。
トップを走るのは彼女が賭けた馬。だがこれは大逃げ、予想通り第二コーナー手前で失速する。
一方俺の賭けた馬は先行で馬群の前方にいた。読み通り第三コーナーを回った所で先頭の馬を捉える。
そして第四コーナーで事件は起きた。
先頭を走っていた馬がぬかるみにはまったのだ。バランスを崩して他の馬に体当たりする――俺の賭けた馬に。
何頭かが将棋倒しになったあと、列の後半を走っていた馬が差しに入った。
大逃げした馬が最後のスパートをかける。空に舞うは紙吹雪。阿鼻叫喚とも呼べる声。喧騒の中隣りにいた妻が思ったより大したことないのねと呟いている。
俺は手切れ金を手にしたまま、しばらく動けずにいた。(821文字)
いわゆるひとつのビギナーズラック。
「賭けが過ぎるからしばらく競馬は控えてって言ったよね?」
「いや、気が付いたら足がふらふらと」
「嘘つけ! いい加減止めろ!」
「って言われても馬は俺の生活の一部で――あ、せっかく来たならおまえも一度やってみれば? 馬の楽しさが分かるって」
「……わかった。じゃあ一つ、賭けをしようか」
「は?」
「次のレース、一着の馬を当てたら相手の言う事を何でも聞く。これでどう?」
その条件に俺は乗った。勝った時に言うのは決まっている。相手はギャンブルとは無縁の人間、負ける気がしなかった。
俺は競馬新聞を睨む。色々考えた末、手堅い一番人気でいくことにした。配当金は雀の涙ほどだが、要は当たればいいこと。
俺が券売機に向かうと、先にいた妻に券を渡された。
「もし私が勝ったらその券自由に使って。そのかわり競馬とは縁を切ってね」
俺は彼女の買った馬券を見る。単勝大穴狙いで投資額は一万円。勝てば万馬券だが無茶にもほどがないか?
俺は首をかしげつつ、券を買い会場へ向かう。ファンファーレが鳴りひびきゲートが開かれた。
トップを走るのは彼女が賭けた馬。だがこれは大逃げ、予想通り第二コーナー手前で失速する。
一方俺の賭けた馬は先行で馬群の前方にいた。読み通り第三コーナーを回った所で先頭の馬を捉える。
そして第四コーナーで事件は起きた。
先頭を走っていた馬がぬかるみにはまったのだ。バランスを崩して他の馬に体当たりする――俺の賭けた馬に。
何頭かが将棋倒しになったあと、列の後半を走っていた馬が差しに入った。
大逃げした馬が最後のスパートをかける。空に舞うは紙吹雪。阿鼻叫喚とも呼べる声。喧騒の中隣りにいた妻が思ったより大したことないのねと呟いている。
俺は手切れ金を手にしたまま、しばらく動けずにいた。(821文字)
いわゆるひとつのビギナーズラック。
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2013
夏休みが明けた九月、校門で光に会った。
光は幼馴染の男の子。今年の夏はアメリカへホームステイに行っていた。会うのはひと月ぶりだ。
「あさひちゃん、おはよう」
光はぱっと見、夏休み前と何ら変わってなかった。
でもなんでだろう。心なしか見下ろされたような。
最初は目の錯覚と思った。けど光が私の横に並んだことでそれは違うと気づく。夏休み前は同じだった肩の高さが微妙に違ったからだ。
私は校舎に入ると教室に向かわず、光を連れて保健室へ向かった。お互いの身長を計る。私一五三センチ、光は……一五五センチ?
「やった、あさひちゃんに勝った」
私に万年チビと呼ばれていた光がガッツポーズをした。追い抜かれた私は嘘、と叫んだ。生まれてから今まで一度も光に負けたことなかったのに。
そこへ保健の先生があらあら、という顔をしてやってきた。
「せんせー、僕身長伸びたの。あさひちゃんに勝ったんだよ!」
嬉しそうに話す光に先生はにっこりと笑った。
「そうね。男の子はこれからが成長期だから。このぶんだとあと10センチは伸びるかしら」
「やったー!」
大喜びの光に更に私も問いかける。
「私は? 私も身長伸びる?」
「女の子も伸びるけど男の子ほどではないかな。体は徐々に丸みを帯びてふっくらしてくるけど」
それって体重が増えるってこと?
「そんなのイヤあ」
私は思わずしゃがみこむ。光には絶対負けられなかった。勉強も運動も、遊びひとつとってもそう。私は光の前にいなきゃいけないのに。
『光に何かあった時は、あさひちゃんが守ってあげてね』
私は光のおばあちゃんとの約束を思い出す。小さい頃、泣き虫だった光を心配しておばあちゃんは私を頼った。光のおばあちゃんはその次の日に病気で亡くなった。
どうしよう。このままじゃ光を守れなくなる。
おばあちゃん、私どうしたらいい?
私が途方に暮れていると肩を叩かれた。振り向いた先に光がいる。
「今まで守ってもらってばかりだったけど、これからは僕があさひちゃんを守ってあげるからね」
光の言葉は頼もしかった。
でも私にとってそれは一番聞きたくなかった言葉。
「イヤ、それだけは絶対イヤ!」
私は全力で拒否する。そのあと大声をあげて泣いた。(944文字)
守る側が守られる側に変わった瞬間に無邪気な子供心を添えて。
光は幼馴染の男の子。今年の夏はアメリカへホームステイに行っていた。会うのはひと月ぶりだ。
「あさひちゃん、おはよう」
光はぱっと見、夏休み前と何ら変わってなかった。
でもなんでだろう。心なしか見下ろされたような。
最初は目の錯覚と思った。けど光が私の横に並んだことでそれは違うと気づく。夏休み前は同じだった肩の高さが微妙に違ったからだ。
私は校舎に入ると教室に向かわず、光を連れて保健室へ向かった。お互いの身長を計る。私一五三センチ、光は……一五五センチ?
「やった、あさひちゃんに勝った」
私に万年チビと呼ばれていた光がガッツポーズをした。追い抜かれた私は嘘、と叫んだ。生まれてから今まで一度も光に負けたことなかったのに。
そこへ保健の先生があらあら、という顔をしてやってきた。
「せんせー、僕身長伸びたの。あさひちゃんに勝ったんだよ!」
嬉しそうに話す光に先生はにっこりと笑った。
「そうね。男の子はこれからが成長期だから。このぶんだとあと10センチは伸びるかしら」
「やったー!」
大喜びの光に更に私も問いかける。
「私は? 私も身長伸びる?」
「女の子も伸びるけど男の子ほどではないかな。体は徐々に丸みを帯びてふっくらしてくるけど」
それって体重が増えるってこと?
「そんなのイヤあ」
私は思わずしゃがみこむ。光には絶対負けられなかった。勉強も運動も、遊びひとつとってもそう。私は光の前にいなきゃいけないのに。
『光に何かあった時は、あさひちゃんが守ってあげてね』
私は光のおばあちゃんとの約束を思い出す。小さい頃、泣き虫だった光を心配しておばあちゃんは私を頼った。光のおばあちゃんはその次の日に病気で亡くなった。
どうしよう。このままじゃ光を守れなくなる。
おばあちゃん、私どうしたらいい?
私が途方に暮れていると肩を叩かれた。振り向いた先に光がいる。
「今まで守ってもらってばかりだったけど、これからは僕があさひちゃんを守ってあげるからね」
光の言葉は頼もしかった。
でも私にとってそれは一番聞きたくなかった言葉。
「イヤ、それだけは絶対イヤ!」
私は全力で拒否する。そのあと大声をあげて泣いた。(944文字)
守る側が守られる側に変わった瞬間に無邪気な子供心を添えて。
2013
今朝、遠距離恋愛をしている彼女からメールが届いた。
好きな人ができたの。だからあなたとはもう付き合えない。ごめんね。
彼女とはSNSで知り合った。最初は同じ趣味を持つ仲間としての付き合いだ。何度かメールをやりとりし、数ヶ月前のオフ会で初めて会った時、交際を申し込んでつき合い始めた。
実際に会えたのは週末や連休の時だけだけど、二人でいる時間は楽しかったし、幸せだった。彼女も同じ気持ちだと信じていたのに――
ネットがきっかけで始まった俺達の付き合いはたった三行のメールであっけなく幕を閉じた。
「でもさぁ、別れる時はせめて電話とかにしない?」
その日の夜。俺は大学時代の後輩を連れてやけ酒に走っていた。
「大事な話なら遠くても顔見て話そうって思わない?」
俺は後輩にからむと、長期の出張から帰ってきたという後輩はそうですよね、と親身に答えた。時々携帯の着信らしき振動が何度かあるが、後輩はそれらすべてを拒否していた。
何度目かの着信で気になった俺は後輩に聞いてみた。
「電話出なくていいのか?」
「いいんです。電話はいつでも折り返しできますから。今は先輩の話の方が大事です」
謙虚な後輩の態度に俺は感動する。電話の催促よりも俺の愚痴を優先してくれるなんて。本当にいいやつだ。
「でも、そんなに何度もかけてくるってのは大事な用かもしれないぞ。一回かけてこい」
「いや止めておきます」
「なんで?」
「たぶん、話が長くなるだろうし。あとで電話するってメールだけ打っておきます」
「もしかして、彼女か?」
「に、なるかもしれない人です」
「まーじーで?」
俺は思わず声をあげた。これはショックと言うより感嘆の声。
「そういうことは早く言えよ。おまえと俺の仲だろうが。すぐに言ってくれればよかったのに」
「先輩がこんな時に言っても失礼かと思って」
「んなことねぇって」
俺は後輩の背中をどんとたたく。俺は今不幸を背負っているが、人の幸せをねたむほど器の小さい男じゃない。可愛い後輩ならなおさら、応援する気満々だ。
「で? どんな子なんだ? 可愛いのか?」
後輩は照れながら携帯に撮った画像を見せてくれた。
「出張先で出会ったんですけど、向こうは彼氏がいて。でも諦めきれなくて、ダメ元で告ったんです。そしたら向こうも会った時から気になっていたって。
彼女、彼氏と別れることができたら俺とつき合ってくれるって――あれ? 先輩どうしました?」
後輩が俺の顔を覗き込む。
携帯の画像を見た瞬間、俺は真っ白な灰になっていた。体の震えが止まらない。
無理もない。映っていたのは俺の――(1099文字)
このあとの展開はご想像にお任せします。
好きな人ができたの。だからあなたとはもう付き合えない。ごめんね。
彼女とはSNSで知り合った。最初は同じ趣味を持つ仲間としての付き合いだ。何度かメールをやりとりし、数ヶ月前のオフ会で初めて会った時、交際を申し込んでつき合い始めた。
実際に会えたのは週末や連休の時だけだけど、二人でいる時間は楽しかったし、幸せだった。彼女も同じ気持ちだと信じていたのに――
ネットがきっかけで始まった俺達の付き合いはたった三行のメールであっけなく幕を閉じた。
「でもさぁ、別れる時はせめて電話とかにしない?」
その日の夜。俺は大学時代の後輩を連れてやけ酒に走っていた。
「大事な話なら遠くても顔見て話そうって思わない?」
俺は後輩にからむと、長期の出張から帰ってきたという後輩はそうですよね、と親身に答えた。時々携帯の着信らしき振動が何度かあるが、後輩はそれらすべてを拒否していた。
何度目かの着信で気になった俺は後輩に聞いてみた。
「電話出なくていいのか?」
「いいんです。電話はいつでも折り返しできますから。今は先輩の話の方が大事です」
謙虚な後輩の態度に俺は感動する。電話の催促よりも俺の愚痴を優先してくれるなんて。本当にいいやつだ。
「でも、そんなに何度もかけてくるってのは大事な用かもしれないぞ。一回かけてこい」
「いや止めておきます」
「なんで?」
「たぶん、話が長くなるだろうし。あとで電話するってメールだけ打っておきます」
「もしかして、彼女か?」
「に、なるかもしれない人です」
「まーじーで?」
俺は思わず声をあげた。これはショックと言うより感嘆の声。
「そういうことは早く言えよ。おまえと俺の仲だろうが。すぐに言ってくれればよかったのに」
「先輩がこんな時に言っても失礼かと思って」
「んなことねぇって」
俺は後輩の背中をどんとたたく。俺は今不幸を背負っているが、人の幸せをねたむほど器の小さい男じゃない。可愛い後輩ならなおさら、応援する気満々だ。
「で? どんな子なんだ? 可愛いのか?」
後輩は照れながら携帯に撮った画像を見せてくれた。
「出張先で出会ったんですけど、向こうは彼氏がいて。でも諦めきれなくて、ダメ元で告ったんです。そしたら向こうも会った時から気になっていたって。
彼女、彼氏と別れることができたら俺とつき合ってくれるって――あれ? 先輩どうしました?」
後輩が俺の顔を覗き込む。
携帯の画像を見た瞬間、俺は真っ白な灰になっていた。体の震えが止まらない。
無理もない。映っていたのは俺の――(1099文字)
このあとの展開はご想像にお任せします。
2013
宵闇の中で物音を聞いた。
私はそっと体を起こす。触台を持ち廊下に出ると外へ出る扉の前に彼の姿を見つけた。伸びかけの金髪はひとつにまとめられている。身なりを整え、一振りの剣を腰に抱えていた。
私は彼の行く先を悟り、問いかける。
「行くのですね」
「ああ」
彼ははっきりと答えた。深紅の瞳に希望の光を携えて。
彼は隣国の王子だった。ひとつの罪を犯し、雪と厳しい寒さに覆われた国境を越え、この村へ着いた時は虫の息だった。
私は彼と初めて会った時のことを思い出す。彼は自分自身を「災いの種」と呼んでいた。己の存在は国を滅ぼす、だから消えていなくなるべきだと。当時彼の目に生気は宿っていなかった。
だが、彼はひとりの少女に救われた。
小国民だった少女は掟によりこの国を背負わされた。ただでさえ大変なことなのに、彼女は彼を受け入れた。それが破滅への道だと分かっていても差し伸べた手を離すことはなかった。
この国は今、罪人を匿ったことを立前に隣国から侵略されていた。すでに都は焼かれ、城も制圧されている。彼女は捕えられ隣国に投獄された。瀕死だった彼は極秘にこの村に運ばれ、今日まで匿われていた。
彼は言った。城が落ちた時、側近も侍女も殺された、彼女の愛する人も彼女の目の前で殺されたと。
知り合いたちの死を私は悲しんだ。そして彼は自分を責め続けていた。
己のせいで国を滅ぼしたこと、彼女を護れなかったこと、そして大きな力の前に自分が叶わないことを彼は思い知らされていた。
でも彼は再び立ち上がった。彼女を救うために。
「貴方に神の加護がありますように」
巫女である私は彼に祈りを捧げる。その先の未来を知りつつも、無事を願わずにいられなかった。
彼は私に感謝の言葉を述べ旅立っていった。重い扉が閉まり重苦しい闇が訪れる。
「行ってしまわれましたね」
気がつくと私の隣りに人が立っていた。
「これでよかったのでしょうか?」
疑問を投げかけられ、私は答える。
「彼は自分の進む道へ――本来在るべきところへ向かった。ただそれだけだけのことです」(882文字)
昔に書いた掌握の続き。巫女さんは未来予知の力があり、この先の展開を知りつつも王子を見送る、そんな話。
私はそっと体を起こす。触台を持ち廊下に出ると外へ出る扉の前に彼の姿を見つけた。伸びかけの金髪はひとつにまとめられている。身なりを整え、一振りの剣を腰に抱えていた。
私は彼の行く先を悟り、問いかける。
「行くのですね」
「ああ」
彼ははっきりと答えた。深紅の瞳に希望の光を携えて。
彼は隣国の王子だった。ひとつの罪を犯し、雪と厳しい寒さに覆われた国境を越え、この村へ着いた時は虫の息だった。
私は彼と初めて会った時のことを思い出す。彼は自分自身を「災いの種」と呼んでいた。己の存在は国を滅ぼす、だから消えていなくなるべきだと。当時彼の目に生気は宿っていなかった。
だが、彼はひとりの少女に救われた。
小国民だった少女は掟によりこの国を背負わされた。ただでさえ大変なことなのに、彼女は彼を受け入れた。それが破滅への道だと分かっていても差し伸べた手を離すことはなかった。
この国は今、罪人を匿ったことを立前に隣国から侵略されていた。すでに都は焼かれ、城も制圧されている。彼女は捕えられ隣国に投獄された。瀕死だった彼は極秘にこの村に運ばれ、今日まで匿われていた。
彼は言った。城が落ちた時、側近も侍女も殺された、彼女の愛する人も彼女の目の前で殺されたと。
知り合いたちの死を私は悲しんだ。そして彼は自分を責め続けていた。
己のせいで国を滅ぼしたこと、彼女を護れなかったこと、そして大きな力の前に自分が叶わないことを彼は思い知らされていた。
でも彼は再び立ち上がった。彼女を救うために。
「貴方に神の加護がありますように」
巫女である私は彼に祈りを捧げる。その先の未来を知りつつも、無事を願わずにいられなかった。
彼は私に感謝の言葉を述べ旅立っていった。重い扉が閉まり重苦しい闇が訪れる。
「行ってしまわれましたね」
気がつくと私の隣りに人が立っていた。
「これでよかったのでしょうか?」
疑問を投げかけられ、私は答える。
「彼は自分の進む道へ――本来在るべきところへ向かった。ただそれだけだけのことです」(882文字)
昔に書いた掌握の続き。巫女さんは未来予知の力があり、この先の展開を知りつつも王子を見送る、そんな話。
2013
久々に従妹の家を訪れると小さな魔法使いが迎えてくれた。
「わたしはまほうつかいもも。まほうのくにへようこそ」
風呂敷のマントに三角帽子、杖の代わりはペロペロキャンディ。そのいで立ちに私は思わず笑みをこぼした。
「魔法少女っての? 最近ブームみたい」
リビングでお茶を出しながら従妹は言う。なんでもももちゃんの魔法使いはどのアニメにも当てはまらないだとか。しかも彼女の呪文は難解すぎるらしい。
そんな話を聞いていると、早速ももちゃんが魔法の呪文を唱え始めた。
「■※○▲★§‰~ トビラよひらけーっ」
私は思わず茶を吹いた。
「ね、意味不明でしょ」
母親である従妹がころころと笑う。私も相づちするが内心はひやひやだ。
私の記憶が確かなら、ももちゃんが唱えたのは物を壊す呪文だ。昨日教わったから忘れるはずがない。
誰にも話してはいないけど、私は魔法使いの卵だ。ある日魔法使いにスカウトされ、目下修行中の身である。
まぁ、そのスカウトした魔法使いもアレっちゃあアレなんだけど。
それにしても、ももちゃんはあの呪文を何処で覚えたのだろう。あれは魔法使い以外誰も知ることのない言葉のはず。
私に一抹の不安がよぎる。まさか、ねぇ?
「ねぇももちゃん、その呪文はどこで覚えたのかなー?」
「だんごこーえんにいたおじいちゃんがおしえてくれたの」
ももちゃんの言う「だんごこーえん」とは、近所の児童公園のことだろう。隣に団子屋さんがあって、そこのみたらし団子は絶品との評判だ。
確かにヤツはみたらし団子に目がない。
「えっと、そのおじいちゃんってのは、もしかして三角帽子と眼鏡つけた、髭の長い、杖を持ったおじいちゃん?」
「うん。おねえちゃん、おじいちゃんのことしってるの?」
あ の く そ じ じ い ! なに子供に攻撃魔法を教えてるんだよ。
杖が本物だったら天変地異が起こっていたぞ。
それだけじゃない。
話を聞く限り、ももちゃんは私よりも先に魔法を教わったことになる。私の時はどんだけ頼んでも教えてくれなかったくせに。何よそのお手軽さは。
あのじじい、いつかぶっ殺してやる。
私は作ったこぶしにぐっと力をこめた。(920文字)
お題を見てこのキャラたちしか出てこなかったという。詳しくは「09.真夜中の祭」で
「わたしはまほうつかいもも。まほうのくにへようこそ」
風呂敷のマントに三角帽子、杖の代わりはペロペロキャンディ。そのいで立ちに私は思わず笑みをこぼした。
「魔法少女っての? 最近ブームみたい」
リビングでお茶を出しながら従妹は言う。なんでもももちゃんの魔法使いはどのアニメにも当てはまらないだとか。しかも彼女の呪文は難解すぎるらしい。
そんな話を聞いていると、早速ももちゃんが魔法の呪文を唱え始めた。
「■※○▲★§‰~ トビラよひらけーっ」
私は思わず茶を吹いた。
「ね、意味不明でしょ」
母親である従妹がころころと笑う。私も相づちするが内心はひやひやだ。
私の記憶が確かなら、ももちゃんが唱えたのは物を壊す呪文だ。昨日教わったから忘れるはずがない。
誰にも話してはいないけど、私は魔法使いの卵だ。ある日魔法使いにスカウトされ、目下修行中の身である。
まぁ、そのスカウトした魔法使いもアレっちゃあアレなんだけど。
それにしても、ももちゃんはあの呪文を何処で覚えたのだろう。あれは魔法使い以外誰も知ることのない言葉のはず。
私に一抹の不安がよぎる。まさか、ねぇ?
「ねぇももちゃん、その呪文はどこで覚えたのかなー?」
「だんごこーえんにいたおじいちゃんがおしえてくれたの」
ももちゃんの言う「だんごこーえん」とは、近所の児童公園のことだろう。隣に団子屋さんがあって、そこのみたらし団子は絶品との評判だ。
確かにヤツはみたらし団子に目がない。
「えっと、そのおじいちゃんってのは、もしかして三角帽子と眼鏡つけた、髭の長い、杖を持ったおじいちゃん?」
「うん。おねえちゃん、おじいちゃんのことしってるの?」
あ の く そ じ じ い ! なに子供に攻撃魔法を教えてるんだよ。
杖が本物だったら天変地異が起こっていたぞ。
それだけじゃない。
話を聞く限り、ももちゃんは私よりも先に魔法を教わったことになる。私の時はどんだけ頼んでも教えてくれなかったくせに。何よそのお手軽さは。
あのじじい、いつかぶっ殺してやる。
私は作ったこぶしにぐっと力をこめた。(920文字)
お題を見てこのキャラたちしか出てこなかったという。詳しくは「09.真夜中の祭」で
プロフィール
HN:
和
HP:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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