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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2025

0421
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2013

0414
 保険会社に勤めてから3年。最近の私の日課は朝、メールで送られてくる成績表と対峙することだ。 
 ディスプレイを眺めながら私ははぁ、とため息をつく。
 期限は5日後に迫っている。どんなに頑張っても私の実績は「彼女」の半分に満たない。
 ああ、あんなこと言うんじゃなかった。売り言葉に買い言葉とは言ったものだけど、本当自分が恨めしい。私はもうひとつため息をつく。
 画面のまん中には飛び抜けた棒がひとつある。根元に書かれているのは後輩の名だ。彼女は入社当初から桁違いの顧客数を獲得している。その大半はお水の仕事時代に得たものだ。
 昔のつてを頼るのはアリだと思う。けど彼女は顧客のライフプランを無視して掛け金だけを釣り上げているのだ。そして客を裏で「ちょろい」と蔑む彼女に私は辟易していた。
 保険はお客様の万が一を保障するものだ。
 見えない商品はお客様の人生と収入の一部を預かることになる。だから私達はお客様の生活に合ったプランを提示しなければならない。小額でもお客様に納得し満足してもらうことが大事。それが私たちの誠意じゃないの?
 そう私は持論を繰り出すが、そう言われても何の説得力もないんですけどー。とあっさり翻された。
 この世は結果を出さなきゃ意味がないんですよ。成果を上げなきゃ会社潰れちゃいますよ。ごはんも食べられませーん。そーんな甘いこと言ってるから先輩は万年ビリなんですよ。
 私の言ってる事間違ってます? 彼女は話を畳みかけた。確かに彼女の言ってる事は間違っていない。でも正しいとも思わない。
 このまま引き下がってたまるものですか。
 今月の新規数、私が貴方を越したら、その考え少し改めてくれる? 私は挑発に出た。
 できなかったらどうするんですか? 彼女の問い返しに、その時はこの会社を辞めてやるわ、と宣言した。
 あれから私は無我夢中で働いた。いつもより多くの家を訪問する。根気強く通って何件か契約も得た。それでも彼女の実績にはほど遠い。このままでは私は彼女に負けてしまう。
 私はパソコンの電源を落とした。目を閉じる。まだ5日ある、と声に出し自分を奮い立たせる。
 弱気になってしまったけど――そうよ、まだ5日もあるじゃない。
 今は何も考えず、仕事に向き合おう。たとえ負けても後悔しない。誠意をもって納得のいく仕事をする。それが私なのだから。(987文字)

営業の理想と現実。営業してた時の葛藤を思い出しながら書いてみた。

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2013

0413
 黒板に書かれた席替表に誰もが凍りついた。
 5×7の升目には私と村井の名が横に並んでいる。月に一度の席替え、連続で席が隣になった時は偶然だねと笑った。3回続くと奇跡かもと驚いた。
 だが4回も繰り返されると恐怖に変わる。お互いどういう顔をしたらいいのか分からない。
「これって不正だろ?」
 誰かの野次にくじを作った委員長が否定する。彼の生真面目さは私も知っているから嘘ではないのだろう。
 が、作った側もこの結果は気持ち悪かったらしい。
「今野と村井、悪いけどもう一度くじを引いて。出た番号の奴と席交換するから」
 全員が見守る中、新しいくじが作られる。不正がないか前列の人に確認してもらう。
 私が先に引いた。5。窓側の席だ。続いて村井が引く。9。席が離れた。私も村井も皆も安堵する。
 委員長がああっと、叫んだのはそれから10秒後のことだった。
「非常に言いにくいんだけど、それ6だ。数字の下に線を引くのを忘れた、ごめん」
 机の並びは5×7。けどうちのクラスは1人多いため窓側の列が6席になる。隣に座る人もいない席次表の枠からもはみ出るそこはボッチ席と呼ばれていた。
 つまり。村井はこれから私の背中を見て過ごし、私は村井の視線を感じながら過ごすことになる。
 正直者の告白に周りがどよめいた。村井の顔が青ざめている。私は頭を抱えた。隣と前後、どっちがマシだっていうんだ! 
 偶然という名の必然はその後「席替えの呪い」と称され学校中を駆けぬけた。(629文字)


考えている時外にいたので携帯で打ってみた。委員長は話のとおり潔白なのだが、素敵な展開を作る羽目に。

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2013

0412
 僕には同い年の妹がいる。母親違いの妹だ。
 父は僕が生まれて間もなく母と離婚した。原因は父の浮気だと聞いた。つまり彼女は父の浮気相手の子供ということになる。
 彼女の顔は写真でしか見たことがなかった。向こうは僕の顔を知らない。この先もずっと関わらないものだと思っていた。
 彼女がこの学校に転入してきたのは一年前の今頃だった。
 俳優の才能を見込まれた彼女は地方から上京した。僕が通っている学校は芸能クラスがあり、俳優やアイドルの卵たちが在籍している。
 生徒にとって芸能人が転入してくることは日常の一部でしかない。だが、僕にとっては何とも言いようのない、苦い事件であった。
 僕は極力彼女に関わらないよう過ごすことにした。移動教室の時も彼女が通らない道を選んだ。学校では常に目立たない存在であり続けた。
 だが僕の努力は半年で崩されることになる。
 あれは校庭の木々が赤く染まり始めた放課後のことだった。
 僕は資料室で本を読んでいた。部屋の扉が開く。突然現れた妹に僕は息を飲んだ。だが彼女のかくまって、の言葉で僕は我に返った。
 彼女を書棚の奥に誘導し廊下を騒がす輩を巻く。ほどなくして静寂が戻った。
「助けてくれてありがとう」
 別に、と僕はつっぱね、読みかけの本に目を落とす。彼女には早々に退散してほしかった。
 少しの間をおいてから彼女が近づく。僕の背後に回る。
「あれってなに?」
 彼女の質問に僕が顔をあげる。そこには携帯電話のディスプレイが。二人の顔が揃った所でシャッターが切られる。
「な」
「私、ここ気に入っちゃった。また来てもいい?」
「だめ」
「じゃあ、これに【私の彼氏】ってデコって親にメールする」
 彼女が携帯をいじりはじめたので、僕は慌ててそれを制する。本気でやめてほしい、と懇願した。
「じゃあ、私もこの部屋使っていい?」
 こうなると勝手にしろといきがるのが精いっぱいだった。
「じゃ、今日から二人の秘密の場所ね」
 じゃあね、と軽くウインクして彼女は資料室から去っていく。僕はがっくりとうなだれた。
 こうして僕は二重の秘密を抱えることになる。(891文字)

滞っている短編連作のプロローグ的なもの。

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2013

0411
 気がつくと、私はガラクタの山にいた。満月が私を見下ろしている。私は数歩歩き、辺りを見渡した。
 おーい、ここはどこだ? 誰かいないのか?
 ありったけの声で叫ぶが何も返ってこない。
 私はひと晩中歩きまわり、叫び続けた。
 おおおい。誰かいないか、いたら返事してくれ。
 月を見送り、朝日を迎え声も枯れ果てた頃、ようやく人間の気配を感じた。本当なんだってば、と男の子が叫んでいる。
「確かに犬の声が聞こえたんだ。ほら、聞こえるだろ?」
 おおい、わたしはここだ。君達は誰だ?
「たぶんこのあたり……あ」
 男の子が私を見つけ抱き上げた。
「やった――って、偽物かよ!」
 男の子の落胆とともに私は地面に打ち付けられる。
 ずいぶんな歓迎ぶりだな、君達は誰だ?
「たぶん、何かの拍子にスイッチが入ったんだろうね」
 隣りにいた女の子は言うと、私を拾い腹に触れる。ぶちんと何かが切れる音とともに私の声と動きは封じられた。
「ちぇっ、本物だったらブローカーに高く売りとばせたのに」
「がっかりするのは早いわよ。偽物でも中身はリサイクルできる。少しでもお金になるものはとっておかなきゃ」
 ナイフ貸して、と女の子が言う。次の瞬間私のお腹に衝撃が走った。ざく、べりべり。ふわふわの皮が剥がれる。心臓をえぐり取られた。
 今度目が覚めたら、私は何に変わっているのだろう。
 以前のような愛玩ロボットか、機械の一部か。あるいは兵器になって人間を殺しているかもしれない。
 私は自分の運命を嘆くことはなかった。私は金属の塊、感情なんて最初から持っていないのだから――


 引越の整理をしている間に眠ってしまったらしい。
 私は分解したばかりのコードや金属の中心にいた。
 膝の上に犬のぬいぐるみがある。腹のスイッチを入れると犬が歩き始める。数歩歩いてはしゃがんで、きゃんきゃんと吠えまくる。
 私は夢の内容を振りかえり、思わず苦笑した。(812文字)

よくある夢オチ。

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2013

0410
「あなた新入生?」
「はい」
「それ、売り物じゃないから」
 学食のおばちゃんの言葉には殺気があった。
 私が手にしていたのはアイスの乗ったプリンで、それは最後のひとつだった。
 カウンターにいるおばちゃんは私をじろりと見る。後ろで作業していた他のおばちゃんも私を睨んでる。何か怖い。そこにある包丁でぶすりと刺されそうな雰囲気だ。
 仕方なく、私はプリンを戻して杏仁豆腐の皿を取った。お金を払って友達のいる席を探そうとした時、
「あらいらっしゃーい」
食堂のおばちゃんの声色が甘ったるいものに変わった。あまりの豹変ぶりに鳥肌が一気に立つ。一体何事?
「今日はカレーとハンバーグがあるんですけどぉ、どちらにしますぅ?」
「じゃあカレーでお願いします」
 男性の返事にはぁい、と答えるおばちゃん。会話の相手は男子学生だ。ネクタイの色からして三年生のよう。
 サラサラの前髪は長すぎず短すぎず、金縁の眼鏡が理知的だ。顔のパーツもほどよくおさまっていて文句なしにカッコいい。
 私が唖然とした顔で見ていると、先輩と目が合った。やばい。ガン見していたのが恥ずかしくなって私は目線を下に向ける。ちょうどお盆が目についたが、そこにのったものを見て更に驚愕する。
 ご飯はてんこもり、カレーのトッピング全部乗せ、サラダは盛りに盛って芸術的な花の形をしていた。この量を一人で食べきれるかも怪しい。そもそもカレー皿にハンバークがおさまってる時点で終わってる。最初から彼にメニュー選ばせる必要ないじゃん。
 先輩は失礼、と声をかけてから私の横をすり抜ける。きらびやかなオーラをまとい、見えない風を吹かせながら。
 気がつけば食堂にいる全ての女子が先輩に釘付けになっていた。ハートマークがあちこちに飛んでいる。
 つまりこの学校であの人だけが特別な存在なのだ。
 私はため息をつく。実を言うとこういう雰囲気はあまり好きではない。『あんなこと』があったならなおさらだ。極力関わらないようにしなければ。
 私は心の中で決意を固めると、改めて友達のいる席を探した。(867文字)

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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