もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。
目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)
2013
畑仕事からの帰り道、軽トラを走らせていると反対側から自転車で向かってくる息子に出くわした。
「どうしたショータ、どこかに出かけるのか?」
「ちょっと思う所があってさ、海まで自分探しの旅してくる」
「そうか、気をつけて行ってこいよ」
「うん、行ってくるよ」
息子は満面の笑顔で出掛けて行った。颯爽と自転車に乗って走る息子の背中を見ながら、俺は満足げに頷く。
つい最近まで鼻水垂らし小僧だったのに、ずいぶんと成長したもんだ。苦悩を海にぶつけるとは。ああ青春だねぇ、いいねぇいいねぇ。
なーんて思って数秒後、俺ははっとする。つい三年前までは実家のある海沿いに住んでいたから、今自分が住んでいる所が「海なし県」だということをすっかり忘れていたのだ。
山に囲まれた田舎町は電車が一時間に一本しか通っていない。今から乗り継いで海にたどりつくまで早くて三時間、乗り継ぎが悪いと五時間はかかるだろう。俺は手元の時計を見た。ただ今夕方の六時。当然ながら今日中に帰って来れるわけがない。俺は慌てて軽トラをUターンさせ、自転車を走らせる息子を追いかける。並走しながら叫んだ。
「こら待てショータ! 今からじゃ海に行っても今日中に戻って来れんぞ。叫ぶんならせめて裏山のてっぺんでしとけ」
「えー、そんなの『らしくない』じゃんか。やっぱ心のもやもやは海で叫ばないと。裏山で叫んだらこだまが返って余計もやもやするじゃないか」
息子の言葉に確かにそりゃそうだな、と俺は素直に納得する。が、すぐに首を横に振った。
「違う違う、とにかく今日はウチに帰るぞ」
俺はトラックを降りると、全速力で追いかけ、息子を捕まえた。自転車から強制的に引きはがす。息子は助手席に、自転車はトラックの荷台に積み込んで運転席に戻る。息子のぶーたれた顔を見ながら俺は苦笑した。ずいぶん昔、俺も息子と同じくらいの年に家出を企てたことがある。あの時もこんな風に親父がトラックで追いかけ強制送還されたっけ。
「どこに思う所があるのか俺は知らないが自分が何者なのか、何をすべきなのかを考えるのは悪くない。その為に旅をするのもいい経験だろう。だがそれをやるなら夏休みだ。夏休みはもう終わっただろう? 自分探しを理由に学校を休むのはどうかと思うぞ。というより、サボりたかっただけだろう?」
「げ、ばれた?」
図星と言わんばかりの息子の顔を見て俺は高笑いする。
「はっは、やっぱりそうか。流石俺の息子。思考回路がそっくりだ」
「……」
「それにな。海に向かって『バカヤロー』と叫んでも虚しいものがあるんだ」
「何それ。お、父さんも昔やったことがあるの?」
「そりゃあるとも」
高校時代、帰宅部だった俺は放課後何もすることがなかったので、実家の近くにある海に行った。昔は釣りや磯遊びだけで一日が終わったが、それもせいぜい中学生まで。高校生ともなると、そこまでする気力はない。かといって遊ぶ所もそこしかないのでやっぱり俺は海に行くしかなかった。
夏の終わりの海は最悪だった。海にはクラゲが大量発生していて泳ぐどころか近寄ることすらできない。でもって浜辺では県外から来た阿呆なカップルが愛してるとか、君の方が億倍綺麗だとかほざいていちゃついて、最後にゴミを捨てていったもんだから、こいつら海に沈めてやろうかと思った位だ。
「とにもかくも。心の中にもやもやがあるなら誰かに話せ。喋ることで気が楽になるってことがあるだろう?」
「でもさぁ、当の本人に喋っても意味ないっていうか――あわわ」
「何だ? 俺のことで悩んでたのか?」
「いや、そうじゃない。なんでもないって!」
息子はそういって口を閉ざす。その口ぶりから息子の悩みをなんとなく悟った俺はそうか、と呟く。
「もしかして、盆に叔父さんたちと話してたのを聞いていたのか?」
「……」
「あんな戯言気にするな。いつも言っているだろう?」
「だけど。死んだ母さんが不倫してて、それで俺が生まれたのは事実なんでしょ? 俺、今まで通り家にいていいのかな?」
「当然だ。血の繋がりなんて関係ない。お前は俺の息子だと俺が認めたんだ」
そう言って俺は息子の肩をそっと寄せた。
「どうしたショータ、どこかに出かけるのか?」
「ちょっと思う所があってさ、海まで自分探しの旅してくる」
「そうか、気をつけて行ってこいよ」
「うん、行ってくるよ」
息子は満面の笑顔で出掛けて行った。颯爽と自転車に乗って走る息子の背中を見ながら、俺は満足げに頷く。
つい最近まで鼻水垂らし小僧だったのに、ずいぶんと成長したもんだ。苦悩を海にぶつけるとは。ああ青春だねぇ、いいねぇいいねぇ。
なーんて思って数秒後、俺ははっとする。つい三年前までは実家のある海沿いに住んでいたから、今自分が住んでいる所が「海なし県」だということをすっかり忘れていたのだ。
山に囲まれた田舎町は電車が一時間に一本しか通っていない。今から乗り継いで海にたどりつくまで早くて三時間、乗り継ぎが悪いと五時間はかかるだろう。俺は手元の時計を見た。ただ今夕方の六時。当然ながら今日中に帰って来れるわけがない。俺は慌てて軽トラをUターンさせ、自転車を走らせる息子を追いかける。並走しながら叫んだ。
「こら待てショータ! 今からじゃ海に行っても今日中に戻って来れんぞ。叫ぶんならせめて裏山のてっぺんでしとけ」
「えー、そんなの『らしくない』じゃんか。やっぱ心のもやもやは海で叫ばないと。裏山で叫んだらこだまが返って余計もやもやするじゃないか」
息子の言葉に確かにそりゃそうだな、と俺は素直に納得する。が、すぐに首を横に振った。
「違う違う、とにかく今日はウチに帰るぞ」
俺はトラックを降りると、全速力で追いかけ、息子を捕まえた。自転車から強制的に引きはがす。息子は助手席に、自転車はトラックの荷台に積み込んで運転席に戻る。息子のぶーたれた顔を見ながら俺は苦笑した。ずいぶん昔、俺も息子と同じくらいの年に家出を企てたことがある。あの時もこんな風に親父がトラックで追いかけ強制送還されたっけ。
「どこに思う所があるのか俺は知らないが自分が何者なのか、何をすべきなのかを考えるのは悪くない。その為に旅をするのもいい経験だろう。だがそれをやるなら夏休みだ。夏休みはもう終わっただろう? 自分探しを理由に学校を休むのはどうかと思うぞ。というより、サボりたかっただけだろう?」
「げ、ばれた?」
図星と言わんばかりの息子の顔を見て俺は高笑いする。
「はっは、やっぱりそうか。流石俺の息子。思考回路がそっくりだ」
「……」
「それにな。海に向かって『バカヤロー』と叫んでも虚しいものがあるんだ」
「何それ。お、父さんも昔やったことがあるの?」
「そりゃあるとも」
高校時代、帰宅部だった俺は放課後何もすることがなかったので、実家の近くにある海に行った。昔は釣りや磯遊びだけで一日が終わったが、それもせいぜい中学生まで。高校生ともなると、そこまでする気力はない。かといって遊ぶ所もそこしかないのでやっぱり俺は海に行くしかなかった。
夏の終わりの海は最悪だった。海にはクラゲが大量発生していて泳ぐどころか近寄ることすらできない。でもって浜辺では県外から来た阿呆なカップルが愛してるとか、君の方が億倍綺麗だとかほざいていちゃついて、最後にゴミを捨てていったもんだから、こいつら海に沈めてやろうかと思った位だ。
「とにもかくも。心の中にもやもやがあるなら誰かに話せ。喋ることで気が楽になるってことがあるだろう?」
「でもさぁ、当の本人に喋っても意味ないっていうか――あわわ」
「何だ? 俺のことで悩んでたのか?」
「いや、そうじゃない。なんでもないって!」
息子はそういって口を閉ざす。その口ぶりから息子の悩みをなんとなく悟った俺はそうか、と呟く。
「もしかして、盆に叔父さんたちと話してたのを聞いていたのか?」
「……」
「あんな戯言気にするな。いつも言っているだろう?」
「だけど。死んだ母さんが不倫してて、それで俺が生まれたのは事実なんでしょ? 俺、今まで通り家にいていいのかな?」
「当然だ。血の繋がりなんて関係ない。お前は俺の息子だと俺が認めたんだ」
そう言って俺は息子の肩をそっと寄せた。
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2013
午後の二時を過ぎる頃になると、後輩が決まって口にする言葉がある。
「あぁー。早く明日が来ないかなぁ」
その声を聞きつけて、通りすがりの誰かが、明日何かいいことでもあるの? と聞くと別にないんですけどねぇーと返ってくる。肩すかしの返答に相手が首をかしげその場を去っていくのもいつものことだ。
向かいのデスクにいた私はねぇ、と後輩に声をかける。
「ねぇ、その口癖、どーにかなんないの?」
「何がですか?」
「『早く明日が来ないかなぁ』ってやつ。特に予定もないのに何で言うわけ?」
「ああ、自分にハッパかけてるだけですよ。呪文みたいなものです」
呪文? と聞き返す私にこれ見て下さいよ、と後輩は自分の机をひとさし指で示した。そこには書類の山がある。そのほとんどが街頭から上がってきたアンケートで、それを打ちこみ集計するのが彼女の仕事だ。
「私はこの減ることのない書類と毎日毎日格闘しているわけです。作業も単調で飽きてくるわけです。ああ、もちろん仕事をないがしろにしているわけじゃないですよ。
でも同じことの繰り返しだと、何か飽きちゃって。眠くなっちゃって。モチベーション下がるわけです。で、気分転換。
一回口にすれば、明日はいいことがあるかもしれない。昨日よりも今日よりも、明日が好きになるよねーって感じになりません。先輩はどうですか?」
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど。それなら私は『早く仕事終わらないかな―』って言うかなぁ。仕事から解放されて家に帰ってシャワー浴びて、冷蔵庫にある缶ビールを飲みながら撮りためたドラマの続きが見たいー、とか」
「なるほど。先輩はおひとりさま生活まっしぐらなんですね……」
口調はゆったりだったけど、その一言は私の心にぐさりと突き刺さる。ああ、悪ぅございましたね。おひとりさまで。
私は後輩からついと顔をそらすと手元のキーボードをタッチした。スリープ状態になっていたパソコン画面が起動する。新着メールが一件入っていたことに気づきボックスを開く。相手は遠く離れた席にいる上司からだ。今夜××社との食事会があるので同席するように、との内容に私はげんなりとする。食事会なんて名ばかり。要は接待で飲み会ってことでしょ。相手の社名を見た限りすぐには帰してくれなさそうだ。はい午前様決定。
「あぁー。早く明日が来ないかなぁ……」
私の口から思わず言葉が出てしまう。その呟きに向かいの後輩は何事かと首をかしげていた。
「あぁー。早く明日が来ないかなぁ」
その声を聞きつけて、通りすがりの誰かが、明日何かいいことでもあるの? と聞くと別にないんですけどねぇーと返ってくる。肩すかしの返答に相手が首をかしげその場を去っていくのもいつものことだ。
向かいのデスクにいた私はねぇ、と後輩に声をかける。
「ねぇ、その口癖、どーにかなんないの?」
「何がですか?」
「『早く明日が来ないかなぁ』ってやつ。特に予定もないのに何で言うわけ?」
「ああ、自分にハッパかけてるだけですよ。呪文みたいなものです」
呪文? と聞き返す私にこれ見て下さいよ、と後輩は自分の机をひとさし指で示した。そこには書類の山がある。そのほとんどが街頭から上がってきたアンケートで、それを打ちこみ集計するのが彼女の仕事だ。
「私はこの減ることのない書類と毎日毎日格闘しているわけです。作業も単調で飽きてくるわけです。ああ、もちろん仕事をないがしろにしているわけじゃないですよ。
でも同じことの繰り返しだと、何か飽きちゃって。眠くなっちゃって。モチベーション下がるわけです。で、気分転換。
一回口にすれば、明日はいいことがあるかもしれない。昨日よりも今日よりも、明日が好きになるよねーって感じになりません。先輩はどうですか?」
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど。それなら私は『早く仕事終わらないかな―』って言うかなぁ。仕事から解放されて家に帰ってシャワー浴びて、冷蔵庫にある缶ビールを飲みながら撮りためたドラマの続きが見たいー、とか」
「なるほど。先輩はおひとりさま生活まっしぐらなんですね……」
口調はゆったりだったけど、その一言は私の心にぐさりと突き刺さる。ああ、悪ぅございましたね。おひとりさまで。
私は後輩からついと顔をそらすと手元のキーボードをタッチした。スリープ状態になっていたパソコン画面が起動する。新着メールが一件入っていたことに気づきボックスを開く。相手は遠く離れた席にいる上司からだ。今夜××社との食事会があるので同席するように、との内容に私はげんなりとする。食事会なんて名ばかり。要は接待で飲み会ってことでしょ。相手の社名を見た限りすぐには帰してくれなさそうだ。はい午前様決定。
「あぁー。早く明日が来ないかなぁ……」
私の口から思わず言葉が出てしまう。その呟きに向かいの後輩は何事かと首をかしげていた。
2013
気がつくと私はベッドの上に横たわっていた。
「やっと、気がついたか」
若い男の声に私の体がぴくりと反応する。視線をずらすと異動先の上司である博士の姿があった。あれ? 私こんな所で何をしてるんだろう?
博士はずりおちた眼鏡を一度直してから私に問う。
「自分の名前は言える?」
「市原ミチカ……です」
「認識はできるみたいだね。起きることはできる?」
博士に促され、私はベッドからゆっくりと起き上がった。頭が非常に重い。だるさが抜けない。まるで麻酔をかけられた後のようだ。
それでも、ゆっくりと私は歩き出す。1歩2歩と足を運んだ所で動きが止まる。部屋の隅に置いてある姿見に自然と目がいったからだ。鏡に映る姿を見て愕然とする。髪の毛はぼさぼさで化粧もしてない。着ているのはよれよれのTシャツと半ズボン。極めつけはズボンの下からにょきっと生える足にすね毛が生えているときた。それも目立つほどの長さ。これは恥ずかしい。女子力ゼロどころかマイナスではないか。
私は2歩どころか10歩以上下がると、前進して姿見の裏に隠れた。顔だけ半分出して、どういうこと、と叫ぶ。
「なんで私こんな格好なわけ? ありえないんですけど?」
そうだ。いつもの私ならこんなすっぴんは許さない。朝、彼氏が起きる前にメイクしておく。服は流行と機能性を7:3の割合で選んでだものを着る。ムダ毛なんてご法度、伸びる前に処理をする。それが私のはず。異動初日の今日だってびしっとスーツで決めたはずなのに。
私が頭をぐるぐるとさせ困惑していると、あーやっぱり覚えてないんだねぇ、と博士が言う。左右の肘を曲げ、手のひらを空に向けると、大げさなほどに肩をすくめた。
「君、まるまる一週間眠っていたの。僕の実験室に入ったら急に倒れてそのままぐーっすり。あ、ここは大学院の隣りにある付属病院ね」
「はあぁ?」
「というかさ。僕、入口に『入るときはマスクと白衣着用』って札かけておいたんだけど。ちゃんと見てなかったでしょ?」
「いや、見ましたよ」
だから私は手持ちの布マスクを着用した。白衣も自前のを着ていたから大丈夫だろうなーと思って扉を開けた。それのどこがいけなかったのだろう。
私は自分の意見を博士に述べる。すると博士は首を横に振った。ちーがーうーと子供じみた口ぶりで否定する。
「僕が言う『マスク』ってのは『ガスマスク』のこと。白衣も特殊な素材でできたもの。入口に置いてなかった? あれ身につけないと大変なんだから、気をつけてよね」
「はぁ」
いきなりの駄目出しに私は首をすくめる。
「それにしても何の実験をしてたんですか? ガスマスク着用だなんて――そうとう危険な実験でも?」
「いや。それほど危険ではない。肌の細胞を活性化させる実験だ」
「肌、ですか?」
「そうだ。君が吸ったのは新陳代謝を高めるガスでな。ターンアラウンドも通常の数倍の早さでくるというやつだ。早い人だと3日でぺろりと脱皮して――というのは大げさだが、実際かなりの角質が取れて肌がつるつるになる」
触ってみ、と言われ、私は恐る恐る自分の顔に手を触れた。頬は殻をむいた茹で卵のようにつるつるだ。弾力もある。程よい柔らかさで水分も十分。10代の頃の柔肌が戻ってきたことに私は驚きと歓喜に包まれた。
「すごーい。何これ。凄すぎるーっ」
「そう、これは画期的なガスなのだ。ただ、副作用に睡眠効果があるのが難点でねぇ。多く吸い込むととそのままぽっくりさようならーってこともある。事実、実験用のマウスでは6割がガス吸引後一時間以内に死んでいる」
うげ。それってつまり殺人兵器じゃないか。私ってばそれを吸い込んでたわけ? だったら奇跡的な生還とかなわけですか?
私はもし自分が眠り続けていたら、と想像する。背筋が凍るのにそう時間はかからなかった。博士は話を続ける。
「まぁ、僕はタナボタ的に人体実験ができたからラッキーなんだけどね。まぁ、万が一ということもあるから。一応検査を受けてね。あと実験中に古い角質残しておくのは不衛生だから、メイクを落としてキミの体を綺麗に拭かせてもらいました。その服も僕の私用だから、洗って返してね」
「はい――って、ええええっ!」
私は博士の所まで猛突進する。あと数センチという所まで顔を近づけると、唇を震わせた。
「も、もしかして――私のなっ、中身見たっ?」
「まさか。看護士さんと研究室にいる助手にやらせました。僕はアカハラするほどケツの穴が小さい人間じゃありませーん」
馬鹿だなぁ、と言いたげな博士に私はぎゅっと唇をかむ。だったらそんな怪しい実験するんじゃねぇ、と言いたかったけど、かろうじてそれを堪えた。
上の指示でここに異動が決まった時、お世話になった教授や先輩からは大丈夫なのか、とか無理するなと言われた。ここの研究室は博士も生徒も変人ばかりと聞いていたけど、まさかここまでとは――
これは明らかな貧乏くじだ。ああ、この先私はどうなってしまうのだろう。私は最悪のいでたちで頭を抱えた。
本日うっかりノーメイクで外に出てしまったことから出てきた博士と助手の話。
「やっと、気がついたか」
若い男の声に私の体がぴくりと反応する。視線をずらすと異動先の上司である博士の姿があった。あれ? 私こんな所で何をしてるんだろう?
博士はずりおちた眼鏡を一度直してから私に問う。
「自分の名前は言える?」
「市原ミチカ……です」
「認識はできるみたいだね。起きることはできる?」
博士に促され、私はベッドからゆっくりと起き上がった。頭が非常に重い。だるさが抜けない。まるで麻酔をかけられた後のようだ。
それでも、ゆっくりと私は歩き出す。1歩2歩と足を運んだ所で動きが止まる。部屋の隅に置いてある姿見に自然と目がいったからだ。鏡に映る姿を見て愕然とする。髪の毛はぼさぼさで化粧もしてない。着ているのはよれよれのTシャツと半ズボン。極めつけはズボンの下からにょきっと生える足にすね毛が生えているときた。それも目立つほどの長さ。これは恥ずかしい。女子力ゼロどころかマイナスではないか。
私は2歩どころか10歩以上下がると、前進して姿見の裏に隠れた。顔だけ半分出して、どういうこと、と叫ぶ。
「なんで私こんな格好なわけ? ありえないんですけど?」
そうだ。いつもの私ならこんなすっぴんは許さない。朝、彼氏が起きる前にメイクしておく。服は流行と機能性を7:3の割合で選んでだものを着る。ムダ毛なんてご法度、伸びる前に処理をする。それが私のはず。異動初日の今日だってびしっとスーツで決めたはずなのに。
私が頭をぐるぐるとさせ困惑していると、あーやっぱり覚えてないんだねぇ、と博士が言う。左右の肘を曲げ、手のひらを空に向けると、大げさなほどに肩をすくめた。
「君、まるまる一週間眠っていたの。僕の実験室に入ったら急に倒れてそのままぐーっすり。あ、ここは大学院の隣りにある付属病院ね」
「はあぁ?」
「というかさ。僕、入口に『入るときはマスクと白衣着用』って札かけておいたんだけど。ちゃんと見てなかったでしょ?」
「いや、見ましたよ」
だから私は手持ちの布マスクを着用した。白衣も自前のを着ていたから大丈夫だろうなーと思って扉を開けた。それのどこがいけなかったのだろう。
私は自分の意見を博士に述べる。すると博士は首を横に振った。ちーがーうーと子供じみた口ぶりで否定する。
「僕が言う『マスク』ってのは『ガスマスク』のこと。白衣も特殊な素材でできたもの。入口に置いてなかった? あれ身につけないと大変なんだから、気をつけてよね」
「はぁ」
いきなりの駄目出しに私は首をすくめる。
「それにしても何の実験をしてたんですか? ガスマスク着用だなんて――そうとう危険な実験でも?」
「いや。それほど危険ではない。肌の細胞を活性化させる実験だ」
「肌、ですか?」
「そうだ。君が吸ったのは新陳代謝を高めるガスでな。ターンアラウンドも通常の数倍の早さでくるというやつだ。早い人だと3日でぺろりと脱皮して――というのは大げさだが、実際かなりの角質が取れて肌がつるつるになる」
触ってみ、と言われ、私は恐る恐る自分の顔に手を触れた。頬は殻をむいた茹で卵のようにつるつるだ。弾力もある。程よい柔らかさで水分も十分。10代の頃の柔肌が戻ってきたことに私は驚きと歓喜に包まれた。
「すごーい。何これ。凄すぎるーっ」
「そう、これは画期的なガスなのだ。ただ、副作用に睡眠効果があるのが難点でねぇ。多く吸い込むととそのままぽっくりさようならーってこともある。事実、実験用のマウスでは6割がガス吸引後一時間以内に死んでいる」
うげ。それってつまり殺人兵器じゃないか。私ってばそれを吸い込んでたわけ? だったら奇跡的な生還とかなわけですか?
私はもし自分が眠り続けていたら、と想像する。背筋が凍るのにそう時間はかからなかった。博士は話を続ける。
「まぁ、僕はタナボタ的に人体実験ができたからラッキーなんだけどね。まぁ、万が一ということもあるから。一応検査を受けてね。あと実験中に古い角質残しておくのは不衛生だから、メイクを落としてキミの体を綺麗に拭かせてもらいました。その服も僕の私用だから、洗って返してね」
「はい――って、ええええっ!」
私は博士の所まで猛突進する。あと数センチという所まで顔を近づけると、唇を震わせた。
「も、もしかして――私のなっ、中身見たっ?」
「まさか。看護士さんと研究室にいる助手にやらせました。僕はアカハラするほどケツの穴が小さい人間じゃありませーん」
馬鹿だなぁ、と言いたげな博士に私はぎゅっと唇をかむ。だったらそんな怪しい実験するんじゃねぇ、と言いたかったけど、かろうじてそれを堪えた。
上の指示でここに異動が決まった時、お世話になった教授や先輩からは大丈夫なのか、とか無理するなと言われた。ここの研究室は博士も生徒も変人ばかりと聞いていたけど、まさかここまでとは――
これは明らかな貧乏くじだ。ああ、この先私はどうなってしまうのだろう。私は最悪のいでたちで頭を抱えた。
本日うっかりノーメイクで外に出てしまったことから出てきた博士と助手の話。
2013
北村の話は続く。
「俺の家、パン屋なんだけど――北村パンって知ってる? 駅の反対側の坂の上にあるんだけど」
北村パン? 知らないなぁ、と言う俺に対し、私知ってるよ、と佐倉が言う。
「昼休み学校に販売に来ているよね」
「そのとーりっ。ウチの押しメンは焼きそばパンとクリームの入ったスペシャルメロンパンだからよろしくねっ。あとお店にも喫茶スペースがあるから、放課後デートに使ってくれると嬉しいなぁ」
とまぁ、北村が調子づいて喋っていると、こらこら、と携帯の向こう側で坂井のたしなめる声が入る。
「家の宣伝のために携帯貸してるわけじゃないんだから。ちゃんと本題に入れ」
「ああ、そうだったね」
一瞬だけ無音状態になったあとで、北村が咳払いする。ええと、と前置きのあとで詳しい説明が始まった。
「明日、店で季節限定の新作パンが発売されるんだけど、店頭で別に売り場を設けようって話になってね。その為の売り子が欲しいんだ。期間は二月の最終日まで。時間は朝夕の一時間ずつの計二時間。パンを袋に詰めてお客さんに渡せばいい。簡単な仕事だろ?」
「内容は分かった。でもなんで俺たちに声をかけたんだ? 俺と佐倉はバイトの経験ないんだけど」
「今度発売する新作はね。『サクラパン』っていうんだ。桜色をしたまあるいふわふわの蒸しあんパンで、桜の塩漬けが添えられて――ここまで言えば俺が何をしようとしているか、分かるよね?」
「つまり、受験生のゲン担ぎ商品のマスコットになれってことか?」
「ピンポーン。大正解」
北村の嬉しそうな声に俺はがっくりとうなだれた。それって結局は受験生たちのいいようにされろってことじゃないのか? と俺は携帯に向かってツッコミを入れるが、いやそれは違う、と反論された。
「君らの名前は個性であり、能力でもある。でも受験生である彼らはそれを利用するだけでお礼をする人はほとんどいない。これって納得いかないよね。おこぼれにあずかるなら代価をちゃんと渡すべきだって俺は思うんだ。
二人が名前のせいでこの時期大変だってことは坂井さんから聞いてた。俺もしばらくの間様子見ていたけど――あれはひどい。あんなんじゃ昼飯も食えないし朝から晩まで生きた心地しないよね。
このままストーカまがいの追いかけっこをするならウチで働いた方がよっぽどいい。ウチで働けばそんな野蛮なことはさせない。昔堅気の店長が礼儀のない客を追い払うからね。
君らはサクラパンを渡して『ありがとうございます、試験頑張ってください』って言葉をかければいいんだ。それだけで客は満足するし、君らは報酬としてお金がもらえる。ウチは儲かる。これで一石三鳥。すごくいいアイディアだと思わない?」
どう? と振られ、これまで話を聞いていた俺は腕を組んだまま考え込んだ。確かに。北村は俺らの気持ちをちゃんと汲んでくれる。これまで俺が思っていたことも代弁してくれた。バイトもその報酬も魅力的ではある。でも、これは妥協案では? と思う自分もいてなかなか首を縦に振ることができない。
俺が頭の中でぐるぐるしていると、これまで黙っていた佐倉が口を開いた。私、やってみようかな、と呟いたことで俺の不安はいっきに吹き飛ぶ。
「何だか面白そうだし」
「本当?」
そう聞いてくる北村に佐倉はうん、と返事をした。
「私、バイト経験ないから自分でお金稼いでみたい。ショウくんはどうする?」
どうするも何も。佐倉がやるというなら俺もやらなきゃイカンでしょう。不安になる理由はもういらない。佐倉と一緒に居られるならどんなチャンスも見逃さない。それが俺だ。
「よし、バイトの件受けたっ!」
俺も返事をすると、よかったーと、北村の安堵の声が届いた。
「実はもうチラシ刷っちゃってばら撒いてたんだ」
「え? そうなのか?」
「もぉ二人とも引きうけてくれなかったらどうしようかって。助かった―」
「だから心配する必要ないって言ったでしょ?」
ふいに坂井が口を挟む。
「こんないい条件なんだもの。二人が断る理由なんてないじゃない。もしあったとしても私がちゃーんと説得して連れてくるわよ。ねぇ、ショウくん?」
その、わざとらしい振りに忘れかけてた悪寒が戻ってきた。俺がもし北村の誘いを断ったらどんな手段で懐柔しようとしていたんだか。いや、だいたい想像はつく。
ちらりと佐倉を見た。佐倉はこれから始まる初体験に心を躍らせている。頬をほんのり上気させて、はにかむように笑う姿は文句なしに可愛いと思う。俺がどんな気持ちで佐倉を見ているのか、知っているのは坂井だけ。だからこそ俺は坂井に頭が上がらない。ちくしょー。今度こそ。今度こそ勇気を振り絞って――
俺は心の中で誓うと、ぐっと拳を握った。
サクラサクの話はここで一区切り。この続きは別視点で書くかもしれんが予定は未定ということで。
2013
俺の名前は佐倉咲という。咲という字は「笑う(えまう)」という意味があり笑顔の絶えない子になりますように、という祈りをこめて両親はつけたらしい。
だが、この名前のおかげで困ったことが二つある。一つは名前をちゃんと読んでもらえないことだ。言っておくが下の名前は「サキ」じゃない。咲と書いて「ショウ」と読むのだ。昔も今も字面だけで女と間違えられるし、本人を見た後で当然のごとく相手と気まずくなる。今は笑って読めないよねぇ、なんてこっちからフォローするけど、昔はそれはそれは傷ついたものだ。
そしてもう一つの弊害――これが一番の問題だ。佐倉咲は「サクラサク」とも読めてしまうのだ。だから世の受験生がゲン担ぎにやってくる。それはそれは市の北から南から果ては県の外まで。
受験シーズンになると、俺は格好の餌食となる。握手は勿論、頭をなでられたり拝まれたり。ひどいと髪を抜かれたり、食べたお菓子の袋を盗まれたりすることもある。それはそれはストーカーよろしくってやつだ。この時期になると本当生きた心地がしない。これまで俺はひどい冬を過ごしてきた。だが今年はこれまでと趣向が違う。それは逃げ場ができたというわけではなく隣りにいる佐倉のせいだ。
俺と同じ苗字を持つ彼女、名をサキという。漢字は俺と同じ「咲」で――つまりは同姓同名だ。彼女もまたこの名前のせいで俺のような一時的神扱いを毎年受けて困っていた。更に高校で俺と同じクラスになったことで何かとややこしいことになっている。入学式の後に席順でもめたり、佐倉と呼ばれれば俺も彼女も振り向いたり、テストに記入された名前だけを見て先生が答案を取り違えたり。クラスの間では俺を名前で、佐倉を苗字で呼ぶことで定着しているが、学内での浸透率はまだまだ低い。おそらく、全生徒が認識する前に卒業を迎えるのがオチな気がする。
でも俺たちが同じ高校に進学し、同じクラスになったことは縁のようなものを感じていた。聞けば佐倉の誕生日は俺のと三日しか違わない。佐倉は普段は控えめな態度を取っているが、ここぞと言う時は自分の意見を主張するし土壇場や本番に強い。芯がしっかりしてるってこういうことを言うんだろう。
話が脱線してしまったが、佐倉のおかげで今年は受験生たちの集中攻撃がある程度分散されている。とはいえ、気を抜けばとんでもない目に遭ったりするので油断は禁物だ。それにしてもプリンが旨い。
俺は弁当をすっかり平らげると感謝のごちそうさまを述べた。佐倉がお粗末さまでした、と返す。お互い顔を見合わせ、思わず笑みが零れる。ああ、幸せすぎるこの瞬間――
と思ったらお決まりのごとく邪魔が入った。携帯の着信音に思わず体が跳ねる。音を切ってなかったことに舌打ちしつつ画面を覗きこむ。坂井の名前が浮き上がっていた。俺は何の嫌がらせかと思いつつ電話に出る。
「サキちゃんのお弁当美味しかった?」
そう聞いてくる坂井に俺は思わず、もちろん、と答えてしまう。すぐに違う違う、と取り消した。
「あれ、美味しくなかったの?」
「そうじゃない。こんな時に何の用だって話だ」
「ああそうか、ショウくんにとっては至福の時間だもんねー。邪魔してごめんねぇ」
じわじわとなぶるような坂井の口調に一瞬ぞっとする。俺は坂井に弱みがあることを改めて思い出した。やべ、受話器の向こうで坂井のうすら笑いが想像できて怖い。俺は頭をぶるんと横に振ってそれを払うと、で何の用だよ、と話を続ける。
「ああそうそう。『縁起のいい』佐倉ショウ君に朗報があってねぇ」
「何だよそれ」
「まだ調理室だよね。側にサキちゃんもいるでしょ? スピーカーに切り替えてくれる?」
坂井の言葉に俺は首を横にかしげつつ、スピーカーになるよう携帯を操作した。調理台の上に置いて佐倉に聞くように促す。しばらくして、坂井とは別の野太い声が聞こえてきた。
「あーあー、聞こえるかな?」
「聞こえるけど……お前誰だ?」
「ああ、聞こえるね。俺、二組の北村っていうんだけど――佐倉さんたちウチでバイトする気ない?」
「は?」
「あのね、これは君らでなければ成り立たないんだ。お願いだ。時給はずむからウチで働いて」
いきなりの誘いに俺と佐倉は再び顔を見合わせた。
だが、この名前のおかげで困ったことが二つある。一つは名前をちゃんと読んでもらえないことだ。言っておくが下の名前は「サキ」じゃない。咲と書いて「ショウ」と読むのだ。昔も今も字面だけで女と間違えられるし、本人を見た後で当然のごとく相手と気まずくなる。今は笑って読めないよねぇ、なんてこっちからフォローするけど、昔はそれはそれは傷ついたものだ。
そしてもう一つの弊害――これが一番の問題だ。佐倉咲は「サクラサク」とも読めてしまうのだ。だから世の受験生がゲン担ぎにやってくる。それはそれは市の北から南から果ては県の外まで。
受験シーズンになると、俺は格好の餌食となる。握手は勿論、頭をなでられたり拝まれたり。ひどいと髪を抜かれたり、食べたお菓子の袋を盗まれたりすることもある。それはそれはストーカーよろしくってやつだ。この時期になると本当生きた心地がしない。これまで俺はひどい冬を過ごしてきた。だが今年はこれまでと趣向が違う。それは逃げ場ができたというわけではなく隣りにいる佐倉のせいだ。
俺と同じ苗字を持つ彼女、名をサキという。漢字は俺と同じ「咲」で――つまりは同姓同名だ。彼女もまたこの名前のせいで俺のような一時的神扱いを毎年受けて困っていた。更に高校で俺と同じクラスになったことで何かとややこしいことになっている。入学式の後に席順でもめたり、佐倉と呼ばれれば俺も彼女も振り向いたり、テストに記入された名前だけを見て先生が答案を取り違えたり。クラスの間では俺を名前で、佐倉を苗字で呼ぶことで定着しているが、学内での浸透率はまだまだ低い。おそらく、全生徒が認識する前に卒業を迎えるのがオチな気がする。
でも俺たちが同じ高校に進学し、同じクラスになったことは縁のようなものを感じていた。聞けば佐倉の誕生日は俺のと三日しか違わない。佐倉は普段は控えめな態度を取っているが、ここぞと言う時は自分の意見を主張するし土壇場や本番に強い。芯がしっかりしてるってこういうことを言うんだろう。
話が脱線してしまったが、佐倉のおかげで今年は受験生たちの集中攻撃がある程度分散されている。とはいえ、気を抜けばとんでもない目に遭ったりするので油断は禁物だ。それにしてもプリンが旨い。
俺は弁当をすっかり平らげると感謝のごちそうさまを述べた。佐倉がお粗末さまでした、と返す。お互い顔を見合わせ、思わず笑みが零れる。ああ、幸せすぎるこの瞬間――
と思ったらお決まりのごとく邪魔が入った。携帯の着信音に思わず体が跳ねる。音を切ってなかったことに舌打ちしつつ画面を覗きこむ。坂井の名前が浮き上がっていた。俺は何の嫌がらせかと思いつつ電話に出る。
「サキちゃんのお弁当美味しかった?」
そう聞いてくる坂井に俺は思わず、もちろん、と答えてしまう。すぐに違う違う、と取り消した。
「あれ、美味しくなかったの?」
「そうじゃない。こんな時に何の用だって話だ」
「ああそうか、ショウくんにとっては至福の時間だもんねー。邪魔してごめんねぇ」
じわじわとなぶるような坂井の口調に一瞬ぞっとする。俺は坂井に弱みがあることを改めて思い出した。やべ、受話器の向こうで坂井のうすら笑いが想像できて怖い。俺は頭をぶるんと横に振ってそれを払うと、で何の用だよ、と話を続ける。
「ああそうそう。『縁起のいい』佐倉ショウ君に朗報があってねぇ」
「何だよそれ」
「まだ調理室だよね。側にサキちゃんもいるでしょ? スピーカーに切り替えてくれる?」
坂井の言葉に俺は首を横にかしげつつ、スピーカーになるよう携帯を操作した。調理台の上に置いて佐倉に聞くように促す。しばらくして、坂井とは別の野太い声が聞こえてきた。
「あーあー、聞こえるかな?」
「聞こえるけど……お前誰だ?」
「ああ、聞こえるね。俺、二組の北村っていうんだけど――佐倉さんたちウチでバイトする気ない?」
「は?」
「あのね、これは君らでなければ成り立たないんだ。お願いだ。時給はずむからウチで働いて」
いきなりの誘いに俺と佐倉は再び顔を見合わせた。
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自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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