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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0407
 私たちは夜の帳が降りたベッドの上に横たわっていた。
 私は隣りに眠る彼の髪をそっとすいてあげる。静かな寝息が頬をかすめる。温もりがとても心地よい。
 このまま世界が終わってしまっても構わないと思う。
 でも彼には好きな人がいた。
 その左手薬指の指輪、対になる指輪を持つ女性――もうこの世に存在しない人。
 幸か不幸か、私はその人と同じ顔を持っていた。
 初めて会ったのは仕事の打ち合わせの時、彼は私を見てひどく狼狽していた。
 彼は私を見るたび懐かしむような表情をする。そのあとで、必ずといっていいほど憂いを帯びた目を向ける。
 今にも泣きそうな表情は私の中にある母性を引き出した。彼の「事情」を知ったのはそれからすぐあとのことだ。
 恋に落ちるまで時間はそんなにかからなかった。
 何回目かの再会の後、私は全てを知っている、と前置きしてから彼を求めた。
 彼はいつものように切なげな顔をして、やめておいた方がいいとたしなめた。
 一緒に居れば僕は君を都合良く利用するだろう、と。
 それでいい、と私は答えた。身代りでいい。貴方の側に居させてください――と。
 寄り添っていると、彼の肩がぴくり、と動いた。
 穏やかな寝顔が徐々に歪んでくる。
 また、あの人を失った時の夢を見ているのだろうか。
 彼の唇が動く。呟くのは彼が本当に求めている人の名。
 彼との逢瀬を重ねるたび、私の心は締め付けられる。決して叶わない願いをねだってしまう。
 たった一度、一度でいい。
 私の名前を呼んで。
 嘘でもいいから、愛してると囁いて欲しい。(667文字)

ひとまず1~10クリア。今まで昇順で消化してきましたが明日からランダムにお題を選びます

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2013

0406
 仕事から解放されて夕飯食べてお風呂入って、さあこれから寝ようって時になって「ヤツ」が現れた。
「そちの世界にあるカレぇというものを作ってくれ」
「嫌です」
 すると腕につけてあるブレスレットが光を放った。
 私は慌てて呪文を唱える。バリアーを張って衝撃を抑えたけど、それでもビリビリして痛い、痛すぎる!
「ふぉっふぉ。それなりに使えるようになったではないか」
 ふさふさの髭をもてあましながらヤツは言う。老人の戯言にどこが、と私は反論した。
 まったく誰よ、こんなの発明したのは。
 私は恨めしそうにブレスレットをつまむ。契約に反すると○カチュウ並みの電流が直撃するなんて。冗談じゃない。
 本当、こんなコト関わるんじゃなかった、私は心の底から思う。魔法使いにスカウトされて浮かれていたけど、弟子とは名ばかり、ただの雑用係ではないか!
「今夜の祭りで王に献上するからのう。気張って作れ」
 このくそジジぃ。
 ぎりぎりと歯ぎしりを立てながら、私はヤツを睨む。でもここで文句を言ってもさっきの繰り返しだけだ。百万ボルトをこれ以上受ける気力もない。
 私はのろのろと台所に立った。
「野菜は一口で食べられる大きさがよいのぉ。玉葱は飴色になるまでじーっくり、な」
 ソファーに寝転びながらヤツは言う。何の断りもなしにテーブルに置いてあったデザートに手をつけている。
 あ、あれは一時間並んでゲットした限定スイーツうぅ。
 私はぐつぐつ煮えたぎる思いを野菜と一緒に鍋の中へブチ込む。烈火の炎でぐっちゃぐちゃになるまでかき混ぜ続けた。野菜が柔らかくなった所で一度火を止め、個形のルーを二種類、崩しながら入れる。
 全く、何が悲しゅうて真夜中にカレーを作らなきゃならないんだか。
「ほほう、これがカレぇか」
 香りに誘われたのだろう。ヤツが鍋をのぞきこんでいた。熱い鍋の中に躊躇なく指を突っ込んで味見をする。
「うむ。これなら異世界の料理で他の奴らを出し抜ける。祭りがたのしみじゃ。ふぉーっふぉっふぉ」
 さて行くかのう、そう言って魔法使いは持っていた杖を回転させる。熱々のカレー鍋が時空を超えるべく宙を舞った。そして私も――
「えええっ! 私も?」
「当然じゃろう。レシピはおまえしか知らんのだから」
 ちょっと。私パジャマにエプロン姿なんですけど。全身カレー臭なんですけど。それ以前に私の貴重な週末は?
「もぉいやああっ」
 私の雄たけびをよそに、魔法使いは時空の扉を開けた。(1035文字)


昨日カレー鍋いじってたことを思い出しお題に絡めてみた。私には珍しいファンタジー系。何だかんだで1000文字超えたよ。

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2013

0405
 病院の待合室で待っていると、入口からもの凄い勢いで山瀬が走ってくるのが見えた。
「美緒は? 美緒はどこだ?」
 山瀬が私を見つけ叫んだ。彼の首筋から汗がだらだらと流れていた。
 私は一回うつむいた。そして天井にぶら下がっている看板に目を向ける。そこには手術室と書いてある。
「打ちどころが悪くて――覚悟しとけって」
「そんな」
 山瀬はがくりと膝を折った。
 美緒は私達のバイト仲間だ。昨日もファミレスに集まって一緒に夕飯を食べた。山瀬と美緒はいつものようにお互いをからかいあって最後にケンカ別れをした。
 山瀬は唇を噛みしめている。悪態をついているけど山瀬が美緒のことを好きなのはバレバレだった。
 それがこんなことになるなんて。誰がこんなことを予測できただろう。
 沈黙が続く。しばらくして診察室の扉から人が出てきた。
「あれ? 山瀬じゃん」
 見知った顔に山瀬は驚きの色を隠せない。
「みみみ、みおおっ?」
「こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」
「おま、病院運ばれたって……」
「店長のこと? 脳震盪起こしたけど問題ないって」
「はぁぁあ?」
 山瀬がすっとんきょうな声をあげた。どういうことだといわんばかりに私の方を見る。
 でも私は今日見たことを正直に話しただけだ。
 今日店長が脚立から落ちて病院に運ばれた。美緒は付添いで一緒に乗っただけ。まぁ覚悟云々は悪い冗談だけど。
「でもこうでもしなきゃあんたは素直になれないでしょ?」
 お節介な嘘吐きの言葉に山瀬は目を丸くした。そのあとで参ったな、とつぶやく。
「そういうことかよ……」
 山瀬はため息をつく。その横でひとり事情を掴めない美緒が不思議そうな顔をしている。
「なに? いったいどゆこと?」
「ぜってー教えねぇ」
 そう言って山瀬は美緒を抱きしめた。美緒の口からふぎゃあ、と悲鳴が上がる。
 お幸せに。
 私はひらひらと手を振ってその場を離れた。(809文字)

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2013

0404
 仕事中に携帯電話が鳴る。相手は幼馴染からだ。
「ああ涼子さん? さっき俺の携帯にかけたでしょ? どうした? っていうか今どこにいるの?」
「ウチの不動産が管理しているアパート。この間夜逃げしちゃったひとがいて、今残った家財道具の査定中」
「リサイクルショップに売るとか?」
「まぁ売れても二束三文ってトコかな。売れないのは処分するしか」
「ええっ! 捨てちゃうの?」
 受話器の向こうで<<もったいないおばけ>>が叫び声をあげた。そう、こいつにとって不要な家財は宝の山なのだ。
「それ俺が全部引き取る! アパートどこ?」
「あんたならそう言うだろうと思って連絡したのよ」
 これから来れる? と私は続ける。場所を説明すると受話器の向こうでだん、どどどどど、とものすごい音がした。
 おそらく、お宝ゲットがに浮かれて階段にから滑り落ちたのだろう。
「はしゃぐのはいいけど足元ちゃんと見なさいよ」
「ってててて、さすが凉子さん。俺のことよく分かってる」
「そりゃあ二十年以上の付き合いですから」
「じゃあ幼馴染のよしみってことで俺と結婚しない?」
 突然の求婚に私はひとつため息をつく。電話をかけた時点でそう来ると思ったけど、毎度ながらその軽いノリがどうもいただけない。
 どういうわけかこいつは私にご執心だ。昔からコトあるごとに私を口説き玉砕を繰り返している。
「ねぇ、俺と結婚して」
「年収一千万稼ぐなら考えてもいい」
「じゃあ結婚しなくていいから俺とつき合って」
「廃材オタクに興味ナシ」
「じゃ俺の家族になって」
「はぁ?」
「お姉ちゃんか妹になって。あ、娘でもオッケー。養子縁組しよ」
 私は呆れてものが言えなかった。新手の口説きに頭がくらくらする。どうしてこいつは次から次へと考えるかなぁ?
 とりあえず着信拒否でもしとこう。
 私は通話をぶった切ると、そそくさと設定変更した。(794文字)


 幼馴染くんが凉子さんにそこまで言う理由。
「そうすれば何かあったとき凉子さんにすぐ連絡がいくでしょ? ほら、俺も天蓋孤独だし。このままだと死んで無縁仏になっちゃう。
お骨は涼子さんに拾ってもらいたいなぁ」
 これも彼なりの愛情。ただこの台詞は重いのでカット

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2013

0403
 突然誘われた飲み会はつまらないものだった。
 知り合い程度の付き合いだから親しい人もいない。営業と人事で部署が違うから、仕事の話も微妙にかみ合わない。
 飲み代奢るから、なんて言われたけどこの場に私はとても浮いている気がする。
 なので私は途中でフケることにした。
 二次会のカラオケボックス、私はドアに一番近い席を選んだ。
 隣りに座ってる新人の武藤さんは下戸らしい。今もウーロン茶をちびちびと飲みながら課長の歌に相づちを打っている。
 帰る時は彼女に一言言っておけば何ら問題なさそうだ。
 五分後、あらかじめセットしていたアラームが鳴る。私は携帯を持って部屋を出ると電話に出るふりをした。
 店員やトイレから帰ってくる人が不審がらないよう当たり障りのない返答をしてそれらしい雰囲気を作っておく。
 そして恐縮顔で部屋に戻り、武藤さんに声をかけた。
「ごめん、急用ができちゃって。私先にかえる」
 いきなり武藤さんが私に覆いかぶさってきた。いやぁーせんぱいかえらないでぇと甘い声が耳に届く。
「せんぱいはわらしがおもちかえりするのぉ」
 ええっ、それって問題発言?
「あちゃー。やっちゃったか」
 私たちの側に若い男性社員がやってきた。確か彼は武藤さんの同期だ。
 事情を聞くと彼女は間違えて私のグラス――ウーロンハイに口をつけたのだという。
「コイツ抱きつき魔って知ってます? ひっついたら最後、最低でも一時間は離れませんので。我慢して下さいね」
 御愁傷様といわんばかりの顔で彼は言う。周りをみれば同じような顔をしている人がちらほら。
 そういえば、誘われた時も申し訳なさそうな顔をしてたような。
 つまりアレですね。私は要注意人物の生贄だったっててコトですか。
 武藤さんはふふふぅ、と口元を緩ませ私にすりよっている。
「せんぱいはわたしのものですよぉーだ」
 ちょっと、腕を掴む力が半端ないんですけど。
 小悪魔の囁きに私は身ぶるいをした。(826文字)


酒は飲んでも飲まれるな、という自戒をこめて。またもや文字数大幅超えだけどもういいや……

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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