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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0522
 牛車で運ばれる途中、花を見つけた。
 それは何処にでもありそうな、小さな花だった。燃えるようなその色に私の心は揺れた。風に乗って花びらが揺れると、柵のこちら側にいい香りがとびこんでくる。花はすぐに視界から消えていった。
 ほんの一瞬だったが、私はその風景を目に焼き付けた。くすぶっていた絵への情熱がふつふつとわいてくる。あの鮮やかな色をこの手で再現したいと思った。 
 ここには筆も絵の具もない。でも大丈夫だ。
 私は親指を噛みちぎる。自分の中にあふれる感性を床に叩きつけた。時に優しく、時に荒々しく。追ってくる痛みは二の次だ。今、この瞬間を逃してはならないと思った。
 私が私であった証を残したかった。
 やがて付添っていた男が私の異変に気付く。何をしている、と怒鳴られた。私は答えない。構わず絵に集中する。男は床に描かれた花を見て黙りこんだ。私を一瞥した後で勝手にしろと言う。男の温情に私は感謝した。
 脳裏に浮かぶ風景を私はひたすら描き続ける。花弁の一つ一つを身を削って記していく。それでも――
 だめだ、足りない。色が足りない。
 やがて車が止まった。
 私が連れてこられたのは大きな広場だった。木の柵が設けられ、その向こう側に人がひしめいている。私の目の前に舞台があった。舞台には柱が立ててある。横に伸びるの先に輪のついた縄がぶら下がっていた。
 私はこれから処刑される。それは抗えない事実だ。
 私は絵を書かせてくれた男に乞う。この牢の中で私の首を刎ねてほしいと。首から溢れる血全てをこの絵に注いでほしいと。
 男はしばらく考え、了承した。牢の柵を壊し、床だけを残して私ごと舞台へ運ぶ。湧きおこる歓声と非難。私は血で描いた花をそっとなぞった。この作品は己の死をもって完成する。私の魂は絵とともに生き続けるだろう。
 やがて空に大振りの剣がかざされる。その瞬間を私は静かに待った。(796文字)


処刑される(元)絵描きの終焉。私にしてはグロ入ってる方かな?

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2013

0521
 その日、私は大学の図書館に向かっていた。自習室で卒論を書くためだ。生憎自習室は席が全部埋まっていた。
 私はくるりと踵を返し、重い本棚の裏にある閲覧室の机に向かう。ここは自習室よりも狭いけど、まぁ仕方がない。
 私は本を読んでいる人の右隣に座った。机に借りてきた資料を広げ、シャーペンを握る。今書いている論文は三時までに提出しなければならない。
 私は深呼吸をしたあとで、机に向かった。
 しばらくして、昼を伝える鐘が鳴った。隣りの人が席を立つ。それから一分も立たないうちに席が埋まる。私はちらりと横を見見た。机には難しそうな資料が積まれている。見る限り、向こうも私と同じ状況らしい。
 私は自分の作業に戻った。再びペンを走らせ集中する。
 小一時間ほどして論文が佳境に入る。一気に仕上げようとペンが加速する。その時、腕に衝撃が走った。自分の腕が隣りの人にぶつかったのだ。触れた瞬間、私はしまったと思う。
「すみません」
 無意識の行動を私はすぐに謝った。隣りの男性は「大丈夫」と答える。穏やかな笑顔に救われた私は一つ呼吸を置いた。
 やばいやばい。気をつけなきゃ。私は気を取り直すとペンを持ちかえ、作業に戻る。
 それから三十分ほどで論文は仕上がった。誤字脱字がないかチェックした所で、隣りの男性が私に声をかけてきた。
「君って両利きなの?」
「え?」
「さっきまで左だったのに、今度は右で書いてたから」
「ああ」
 私は右手に握ったペンを見つめた。
「普段は左利きなんですけど、今みたいに机を並べていると、右利きの人とぶつかっちゃうんで。そういう時だけ右で書くんです」
「へぇ。左利きの人って、見えない所で苦労しているんだね」
 彼は感心したように頷いているが、私はまぁ、と曖昧な返事をする。それよりももっと気になったことがあるからだ。
「あの、そちらは大丈夫なんでしょうか?」
「へ?」
「そちらもレポートの提出あるんじゃないんですか?」
 私は彼の机に目を向ける。題名と数行だけ書いたレポートはお世辞にも進んでいるとは思えない。まさか、そっちに気を取られて進まなかったってことはないよね?
 私は一抹の不安を抱えつつ、彼の反応を待った。(923文字)


左利きの人は結構右も使える人が多いような。そんな感じで書いてたけど、やっつけ感のある仕上がりになってしまった

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2013

0520
 仕事帰りに寄ったファミレスで沙奈を見つけた。
 ここ最近忙しくて会えない、なんて聞いていただけに俺の心はときめく。久しぶりに会う恋人は相変わらず可愛い。
 俺は自分の席を立った。声をかけようと近づくが――途中で動きを止めた。彼女の前に男性が現れたからだ。
くたびれたスーツに黒い鞄。後頭部の禿げにあれ、と思う。あの独特のバーコードはめったに見ない。というか、あれは俺の親父ではないか!
 ハンカチで汗を拭きとりながら「待った?」と言う親父。「いいえ。私もさっき来た所です」と涼しげな顔で沙奈。
まるでデートの待ち合わせのような雰囲気に俺は息を呑む。
「ごめんねー、仕事がなかなか終わらなくて。ご飯はもう済んだの?」
「お腹一杯になっちゃうと動けなくなるんで――よかったらどうぞ。まだ時間もありますから」
「じゃ、遠慮なく」
 そう言って親父はハンバーグセットを注文する。食事中、親父は沙奈にこんなことを聞いてきた。
「沙奈さんは私とつき合ってて、退屈しない?」
「そんなことありませんよぉ。中井さんこそ、毎晩帰りが遅くなって、家族に怪しまれたりしませんか?」
「私は問題ないよ。子供も妻も私がいない方が静かだって言ってるし」
 じゃあ行こうか。食事を終えた親父が席を立つ、沙奈のコーヒーの分も清算すると、仲良く肩を並べて歩いた。途中、沙奈が何かを囁く。親父は照れくさそうな顔をしながら、沙奈の腕を自分の腕に絡ませた。
 うおおおおぃ。二人とも何やってるんだよ!
 俺はやきもきしながら追いかけた。やがて二人の足がとあるビルの前で止まる。その前に「不倫列車でGO」というヤバそうな店の看板があった。嫌な汗が止まらない。
 二人は腕を組んだまま階段を登ると、みすぼらしい扉の中へと消えて行った。俺の不安が頂点に達する。あの二人、この部屋で一体何を――
「あら? あなた、ここに用があるの?」
 俺が部屋に飛び込もうか悩んでいると、ケバいおばさんに捕まった。
「もしかして見学? だったらこっちじゃなくて隣りの部屋よ」
 さあどうぞ、とおばさんが俺を誘う。半ば強引に隣りの部屋へ引きずり込まれた。扉を開けた瞬間まばゆい光が襲う。壁の一面が鏡になっているせいか、部屋が実際よりも広く感じる。床に敷き詰められたフローリングがピカピカに光っていた。
 そして隣りの部屋に入ったはずの親父が何故かそこにいた。
「た、タカユキ?」
 突然現れた息子に親父は固まっていた。俺は親父の変わり果てた姿に唖然とする。更に。
「あれ? タカユキじゃない。こんな所でどうしたの?」
 奥の扉から沙奈が現れた。さっきのパンツスーツではなくひらひらのスカートを履いている。そういえばこんな服、テレビで見たことがある。あれは確か――


「まさか、中井さんがタカユキのお父さんだったなんてね」
 思いがけない縁に沙奈は笑った。フロアの中心で親父が教わったばかりのステップを必死に踏んでいる。都会の窓に浮かぶのは「ダンス教室」の文字だ。
「お姉さん、結婚するんだって?」
 沙奈の言葉に俺は頷いた。姉は来月に式を挙げる。相手はアメリカ人だ。なんでも米国では披露宴で花嫁と父親がダンスをするらしい。親父はその為に特訓していて、沙奈は姉の役を務めているのだとか。
「でもさ。これってサンバだよな? 何故にサンバ?」
「ウケ狙いたいんだって。面白いお父さんだよね」
 軽快な音楽に乗って親父が腰を振る。ぼよんぼよんと震えるビール腹。俺は笑いをこらえるのに必死だった。(1465文字)

シャルウィーダンス? な話。 沙奈とお父さんが腕を組んだのはバージンロードを歩く練習なのでした

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2013

0519
「ああ片桐様。本日は『顔合せ』の日でしたね。お相手の方はいかかでした?」
「とんでもなく最悪です」
「あら、お気に召しませんでした?」
「気に召さないも何も! 『あれ』は一体どういう事よ!」
 私は結婚相談所の一角に設けられた喫茶室を指す。そこには魚の頭にかぶった男がいた。きらきらと鱗を光らせながら優雅に茶を飲んでいる。最初は着ぐるみか何かかと思ったが、あれが本物のツラの皮なのだとか。
「ここは女性に半魚人を紹介するとこなんですかっ!」 
「ああ、そのことでしたら――少々お待ち下さい」
 スタッフは手元の端末から私の個人情報を引き出した。そこには入会当時に記入したアンケートの結果も入っている。
「ええと、片桐さまはお会いになりたい男性について、【年収一千万以上】【年齢差は最大十歳まで】【家同士の距離は十キロ圏内】【外見や出生にこだわらない】【種族を超えた結婚に興味がある】etc……四十三項目にチェックを入れております。
我々はこちらの回答を考慮し、今回加藤さまをご紹介した次第でございますが……」
「ええと、種族って肌色の話ですよね? 白とか黒とか黄色とか、国際結婚とか。そういった話ではなく?」
「はい。ですがこの場合は人間以外の種族も含まれます。魚人、鳥人、狼族、妖怪から宇宙人まで。この項目をチェックされた方には多種多様ののお相手をご紹介しております」
「人間は? 普通の男性はいないの?」
「人間の男性は少子化の傾向でお客様のニーズも細分化され、理想のお相手を見つけるのはかなりの困難でございます。それに対し、人外の男性は人口も右肩上がりでして、特に結婚相手として魚人、狼族の方が好まれます。彼らと結婚する最大のメリットは生まれてくる子供の身体能力がとても高い所です。
 まぁ、最初見た目にびっくりされる方もおりますが彼らの身元は我々も保障しますし、皆さん紳士で真面目な方ですよ」
 担当者のにこやかな説明に私は絶句する。紳士で真面目と言われても……ねぇ? 顔がアレですよ。目がぎょぎょですよ。灼熱の太陽浴びたら火傷の前にカマ焼きができそうですよ。つうかまかり間違って結婚したとして、子供産んで――やめた。想像するだけで頭がおかしくなりそうだ。
 私はスタッフに噛みつくのを諦め、半魚人――もとい、加藤さんのもとへ戻る。
「すみません、お待たせしちゃって」
「いえ、そんなに待ちませんでしたから」
 加藤さんは笑顔で迎えてくれた。 頭の上にじんわりと脂がのっている。
 悪いけど、ここは適当に切り上げて次の出会いを探そう。次は人間との出会いを強く要求して、それが無理ならここの会員を辞めて。最悪結婚は諦めてもいい。仕事しているんだし、私には幾つかの選択肢も残されているんだから。
 でも――
 冷めた紅茶を口につけながら私は思う。加藤さんが顔に似合わずいい人だったからだ。喋りは饒舌で趣味も合うし性格も悪くない。それに何より、一緒に居て居心地がよすぎるのだ。
 嗚呼、顔が。顔がアレじゃなければ。ここは妥協すべき? いや、でも。ああでも、ゆるキャラだと思えばそれなりに悪くないか?
 私の中でぐるぐると葛藤が回り続ける。その後ろでスタッフがにんまりとしていることすら気づかなかった。(1351文字)

人外なるものとのお見合い話。

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2013

0518
「ヒガシさん、おはよう」
「おはよ……どうしたの? こんな所で」
「見てのとおり、今日は歩いてきた」
「あっそ」
 私はニシを素通りする。すると芸人ばりに頭を叩かれた。
「いったー、何すんのよ」
「お前はそれしか言えないのかっ!登下校は黒塗りのベンツがデフォの親友が歩いてきたんだぞ。おかしいと思わないか?何かあったって思わないか?」
「思わない。つうか、私はあんたを親友と思ったコトなんて一度もないんですけど?」
 私の一撃にニシが吐血する。HPが相当削られたらしい。ニシがうずくまる。でもすぐに立ち上がった。
「ふふふ、そうか。分かったぞ。お前は俺を試しているな? そうやってそっけない態度を取って俺の気を引こうとしているんだ。そうだろう?」
 このツンデレさんっ、そう言ってニシは私の背中をつつく。その指先からハートが飛ぶ。ああ、うざいったらありゃしない。
 はっきり言おう。こいつは疫病神だ。それも最上級の。迷惑極まりない疫病神だ!
 この目の前にいる勘違い男――ニシは年商数十億を稼ぐ某財閥の御曹司である。彼はどういう気まぐれか、私ら庶民と同じ公立高校に通っていた。そしてどういうわけか私を親友と呼び、つきまとっている。私たちのやり取りは漫才さながら、周りからは東西コンビと言われていた。
 ――って、説明している場合じゃない。このままだと遅刻してしまう。
 私は近道を通ることにした。一本奥にある、細い路地裏を抜けて行く。すると、いかにもなヤンキーたちが私達を囲んだ。
「お兄さんたち、ここを通るなら通行料払ってもらえるかなぁ?」
「通行料? ここは公道でしょ? そんなの払う必要ない」
 明らかなカツアゲに私は眉をひそめる。すると、ニシがこんなことを言い出した。 
「通行料が必要なのか? いくらだ?」
「十万円。お兄さん払ってくれるのか?」
 ヤンキーがふっかけた金額にニシはそれだけでいいのか? なんて言っている。ああそうね。ニシにとって十万ははした金だ。世間知らずの御曹司にヤンキー達が笑った。このままだとニシはお金を渡してしまうだろう。
 でも「彼ら」がそれを許すかしら?
 ニシが上着のポケットに手を入れた瞬間、風が抜ける。黒スーツの集団が私達の前を通り過ぎた。彼らはヤンキー達を抱え、建物の奥へと消えて行く。黒スーツの彼らはニシのボディガードだ。彼らは武道のスペシャリストで傭兵経験もあるらしい。この先の展開は――まぁ、想像にお任せしとこう。
 拉致られたヤンキーたちよご愁傷様、今度カツアゲするときはもっと別の人を選んでね。
 このように、ニシと一緒にいると何かしらの事件に巻き込まれる。
 誘拐暗殺は日常茶飯事。カツアゲはまだ可愛い方だ。この間なんか、街中でバズーカ―をぶっ放され洒落にならなかった。これじゃ命がいくつあっても足りない。
「あのさぁ。いつものように車で行ってくれない?」
 私はニシに頼んだ。お願いだから私を巻き込まないで。 
「そうか。お前は俺の車に乗りたいのか。それは大歓迎だぞ」
 私はニシの頭を思いっきりはたいた。おまえはそれしか言えないのか!
 嗚呼、誰か。この勘違い野郎を何とかしてくれ。(1323文字)

御曹司と庶民のあれやこれや。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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