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もの書きから遠ざかった人間のリハビリ&トレーニング場。 目指すは1日1題、365日連続投稿(とハードルを高くしてみる)

2024

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2013

0909

 店の扉を開けると、虎がうつ伏せで寝ていた。よくある高級品の絨毯じゃない。本物の虎が寝ているのだ。虎が半目を開き私の顔をちらりと見やる。なんだ獏か、とけだるそうな声をあげた。上着をハンガーにかけた私はどうしたの? と虎に声をかける。
「なんか疲れてるみたいだねー。つうか、変身解けてるけど」
 そう、いつもだったらきりりとした女社長がおかえりと声をかけてくるはずだった。だが、その女社長は仮の姿を解いて床にへばりついている、毛皮を背負ってるせいか体が熱い。そのうちバターにでもなりそうだ。
 それにしても、普段は化けの皮を剥がさない虎がこんな状態でいるのも珍しい。大きな仕事でも入った? と私は聞いてみる。虎は小さく首を横に振った。 
「さっき訪れた客が厄介でさぁ。いろいろ要求してきたのよ。まぁ、ウチは夢を見せてあげるのが仕事だからやるけどさぁ、あんなに欲張られちゃこっちの体が持たないっての。もうお腹が空いて動けなーい。死にそぉー。美味しい肉食べたい」
「さっきお昼にステーキ3枚に鳥ももとトンカツ食べたじゃん」
「じゃあ、その腕一本ちょーだい。アンタ、夢吸ってお腹いっぱいなんでしょ? むちむちしてて美味しそう。舐めるだけでいいからちょっとだけ」
「そっちはもっと嫌だ」
 私は伸ばしてきた虎の前足をひらりとかわした。一緒に仕事はしているけど、虎は獏である私にとって天敵なのだ。皮一枚とてやるか。
 私が頑として拒否を続けると、虎はやだやだと駄々をこね始める。背中を中心に右へ左へとのたうちまわる姿はマタタビに酔った猫に似ている。猫にしちゃでかいけど。というか虎だけど。
 虎が転がる度に床が軋む。このままだと床が抜けて下の住人から苦情が来てしまうかもしれない。私はひとつため息をついてわかった、と答える。その声に虎の目がきらりと光った。
「腕一本くれるの?」
「んなことするかっ。出前を取るの。勿論お金はそっち持ちね」
「でも出前取るなら生のお肉にして。肉屋で買ってきてー」
 そう言ってトラは前足を懐に突っ込み、ケモノ柄の財布を出した。これがいわゆる虎の子の財布って? なんて心の中で冗談を呟きながら私は財布を受取る。
「『国産』は駄目よ。必ず『和牛』って書いてあるのにして」
「はいはい。それで部位はどちらを御所望で?」
「んーとねぇ、ヒレのかたまりがいいなぁ。なければロースで」
「了解」
 私はふかふかの財布をしまうと再び外へと繰り出した。

80フレーズⅠ「61.表の顔と裏の顔」に出てくる獏には虎の上司がいました、という話。実際、虎は獏の天敵ということで「夢を見せる」役割にしてみた。

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2013

0907

 久々に訪れた街は異常なほどの活気を見せていた。 
 宿屋の主人が言うには、数十年に一度の祭りがあるのだとか。今宵、流星群の天の下で行われる祭りはこの国の中でも一番の賑わいを見せるのだという。
「お客さんも是非、流星群を見に行きなされ。表通りを抜けた先にある丘の上が良く見えるよ」
 そう勧められたこともあり、私は宿を出て祭りの様子を伺う事にした。表通りは星をあしらった像や飾りで埋め尽くされ、人々は歌と踊りに明け暮れていた。あまりの陽気さに私の心も浮足立つ。だが、それも小一時間で私の元気も果ててしまった。
 人に酔ってしまった私は表通りから道を一本外れ、遠回りをすることにした。そこは「裏通り」と呼ばれる場所で月に数回ある「闇市」以外は誰も近づかない場所だった。家の間にある路地裏は薄暗い。それでも今日は露店がいくつかあって、それなりに人の通りはあった。 
 私はゆったりとした足取りで通りを歩く。しばらくしてとある露店に目がとまった。そこは服や小物宝石を扱った雑貨屋だった。種類も豊富で通りすがりの人が次々に寄っていく。だがすぐに客が離れてゆく。客が商品を手にとると物陰から少年が鋭い視線を向けるからだ。それは手を出すなと言わんばかりの主張。無言の圧力に客たちがすごみ品を置いて店から離れて行く。それが何度か続くと店主がとうとう痺れを切らし少年をぎろりと睨んだ。おもむろに近づき少年が着ているボロボロの服を掴む。
「お前がいると商売にならないんだよ。とっとと失せろ」
「この指輪は母さんのものだ。返せ!」
「何を言うかと思ったら。馬鹿馬鹿しい。ここにあるのは全て俺の店の商品だ」
「嘘だ! さっき売った服だって母さんのものじゃないか。この泥棒!」
「泥棒とは心外だなぁ。これは道端に落ちていたんだ。ここではな『落ちてた』モノは『拾った』ヤツのものになるんだよ。このクソガキが。テメェも殺されたいか?」
 商人は少年を突き飛ばすと、持っていた棒で少年を数回叩いた。少年の体が跳ねる。白昼堂々の暴行に助ける者は誰もいない。人々は目を背け、その場を通り過ぎるだけだ。
 ここの治安の悪さは筋金入りで警察も恐れをなして近づこうとはしない。ここは無法地帯で死人が出るのはいつものことだし、死体から盗んだ服や宝石を高い値で売る輩も珍しくない。ここで襲われたら最後、運が悪かったと思うしかない。ここは正直者が馬鹿をみる――そういう場所なのだ。
「どうしても指輪が欲しいというなら金を払うんだな」
 そう言って商人は値を少年に突きつけた。それはこの街で働く平民が十年働いても手の届かない金額だ。少年が唇を噛み、悔しさをにじませる。鋭い視線が商人を貫いた。
「何だその目は。まだ殴られたいのか?」
 商人が手持ちの棒を振りあげたので。私は思わず二人の間に割って入る。自分の手を商人に差し出した。持っていた杖がしゃなりと音を立てる。棒は少年の頭をかち割る一歩手前で止まった。 
「商人よ。その指輪を見せて貰おうか」
 私はわざと身につけている服を翻した。しゅるりと心地よい音が響く。布が放つ輝きに商人の目が光った。この布をまとう事が出来るのは金と力を備え持つ者だけだ。私の身なりを見て上客と思ったらしい。商人は手を揉みながらへらへらと笑う。ただ今ここに、と言うと指輪を私に差し出してきた。
 私はそれを手にとるとひととおり吟味する。指輪は小ぶりの石がひとつはめられたものだ。金属に多少の傷を見つけたがそうそう目立つものではない、乗せられた石も綺麗な楕円を描いていてひびも欠けもない。
 私は自分の指にはめてみた。天にかざすと、静かな海の色に星がひとつ浮かびあがった。それはこの石を丁寧に削って磨きあげたという証拠だ。その輝かしさに私はほう、とため息をつく。
「こんな上物をここで見るとはな」
「そうでしょうそうでしょう。これはめったにお目にかかれないしろものですよ」
「そうだな」
 私は商人の話を左から右に流すと、少年の顔を伺った。目がつり上がって、頬が紅潮している。剣を持たせたら、今にも襲いかかってきそうな勢いだ。私は少年の強い殺意をあえて無視する。商人にこれを頂こうか、と告げた。懐にあった金貨を袋ごと差し出す。その中身を確認した商人は一瞬目を丸くするが、すぐに顔を緩ませ、ありがとうございますと首を縦に揺らした。
 売買が成り立ったあとで、私はもう一度少年を見据える。少年の顔はひどく歪んでいた。瞳が潤いで満ちている。今にも泣きだしそうだ。
 私は少年に問う。 
「おまえの母親の名は? 何という?」
「……ステラ」
 少年はしゃくりあげた。絶望に満ちた双瞼が閉じられると、大粒の涙がひとつふたつと地面に落ちてゆく。
「その指輪……僕が生まれるずっと前の星祭りで父さんが母さんの為に買ったんだ。お星さまがお母さんと一緒だねって。母さんの一番の宝物だったんだ」
 少年の告白に私はそうか、と呟く。少年が告げた名は、指輪に刻まれている文字と確かに一致した。少年の言葉が全て真実だと確信した私は少年に背中を向け、歩き出す。数歩進んだ所で足を止めた。
「この指輪が欲しいか?」
 もう一度だけ振り返り、少年に問う。少年はくしゃくしゃの顔を私に向けていた。闇に閉ざされた眼にひとすじの光が宿る。
「指輪……返してくれるのか?」
「返すとは言っていない。欲しいかと聞いている」
 どうなんだ? と聞く私に少年は欲しい、と即答した。期待通りの答えに私の口元が思わずほころぶ。
「では私のもとで働きなさい。身を粉にして私に仕えなさい。その代価としてこの指輪をやろう」

80フレーズⅠ「56.非日常」と同じ世界観で書いてみた。


 

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2013

0906

 駅の改札口を過ぎると、背中から強い視線を感じた。私の中で警報が鳴り響く。またか、と思う。ちらりと出口方面を伺うと、若い女性と一瞬だけ目があった。女性がこちらに近づいてくる。清楚さを主張するワンピース姿だが、それをまとう人間の目は何ともギラギラしていて気持ち悪かった。
 私の顔が垢抜けないのか、気弱そうに見えるのか、見知らぬ街に降り立つと見知らぬ誰かに声をかけられる。それは粗品をあげるのでアンケートをお願いしますとか、役に立つ情報をあちらでご紹介していますとか言ってるけど、最終的には二束三文の品を高い金額ふっ掛けられたり、無理なノルマを課せられるのがほとんどだ。お得や限定、タダほど裏に何かがある。それは辛くも私の実体験を含んでいた。
 やだなぁ、ここで待ち合わせなのに。
 私はそっとうつむいて、女性に目を合わせないようにする。あの、声を掛けられても無視して素通りする。女性との距離がある程度離れるとこれまであった視線はぷっつりと途絶えた。おそらくターゲットを他に定めたのだろう。
 私はこういった「奴ら」の商売に辟易していた。が、声高にして責めるようなことはしない。その場で言っても無駄で終わるのが目に見えていたからだ。ああいう仕事はすでにマニュアル化していてあの手この手の抜け道や言いわけを作っているから、口を出したら余計にややこしくなる。反論は興味の裏返しだと勘違いされ、奴らは私に喰らいつくのだろう。遠い日の苦い思い出がほろりと落ちる。
 丁度お腹がすいたので、高架下にあるベーカリーで食事がてら相手を待つことにした。パンを二種類お盆に乗せ、飲み物を選び会計を済ませる。階段を昇り二階の喫茶室に向かった。窓側の席に陣取り、そこから見える風景をおかずにして主食を平らげる。
 駅の入り口付近では若い女性がまだ見知らぬ人に声をかけ続けている。疲れきった表情がこちらまではっきりと見える。駅周辺を徘徊する女性を周りはどう思うのだろうか。特に、こういった商売の裏に気づいてる人間は。金にくらんだ報いだと言うのだろうか。それとも「ほら、人生って甘くないでしょう?」と嘲笑されるのだろうか。
 私はこっそりため息をついた。ああ、何でこんな時代になっちゃったんだろう。昔は一人が困っていたら回りがそれを見逃さなかった。その昔、私が満員電車で酔っ払いに絡まれた時、周囲の人たちが無言で盾になってくれて私を助けてくれた。皆他人同士なのに、あのチームワークの良さには惚れ惚れしたし、その優しさに私は言葉にできないほどの感謝を抱えていた。
 今、同じような場面に遭遇したら私は彼らと同じことができるだろうか。見ず知らずの他人に手を差し伸べる勇気はあるのだろうか。
 食事を終えて数分後、携帯が鳴った。待ち合わせの相手からだ。外を見やれば改札付近でその姿が確認できる。今何処と聞かれたので場所を伝えた。相手が分かったと言って電話を切ろうとして――私は待って、と声をかける。あの女性がそちらに視線を向けたからだ。
「このまま電話切らないで」
 私は言う。それが今の私にできる、「奴ら」へのささやかな抵抗なのだ。

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2013

0904

  放課後部室に向かうと中に入れない状態になっていた。鍵がかかっていたわけではない。扉の向こう側に机がぎっちり積まれていたのだ。
「何だよこれは―――っ」
 先にきていた部員たちの悲鳴を聞きながら、私は特に反応を示すことなく、ただ口を静かに結ぶ。しばらくして手をぱん、と叩くと、机を皆で片付けようと提案した。
 部長である私の指示に部員たちが渋々従う。机を動かす音と一緒に聞こえるのは愚痴の数々だ。
「先月は机や椅子が接着剤で固定されてたじゃない」
 ああ、あれは剥がすのに苦労した。
「その前は机で『バーカ』って書いてあった。何なんだよなぁもぉ」
「ホント、何の嫌がらせかなぁ。嫌になっちゃう」
 ぶつぶつと文句を言いながら部員全員で机を廊下に押し出す。すると、空っぽになった教室の中心に魔法少女ナナちゃんのフィギュアが立っているのを確認した。それを見た次の瞬間、一人の男に疑いが集中する。
「俺じゃない俺じゃない」
 疑わしき容疑者――庵はぶるんぶるんと首を横に振る。
「確かにあれは俺のだけど。あれはもともと部室に置いてあったのだし」
「そぉですかぁ?」
 庵の弁明に後輩の一人が噛みつく。
「この間部室掃除した時に自分のフィギュア壊されたって怒ってたじゃないですか?」
「まさか、その仕返しとか?」
 部員たちの冷めた眼差しに庵はんなわけねーだろ、と反論する。
「そりゃ、あの時は怒ったけど。でも根に持つわけじゃないし――ホント、俺じゃないってば。ちょ、ぶちょぉー」
 窮地に追い込まれた庵が私に泣きついてきた。
「部長は俺のこと無罪だって信じていますよね」 
「まぁね」
「『まぁね』って――棒読みじゃん。部長もそんな冷めた目で見ないでよ。俺、ホントこんなことしないって。信じてくれるならこの間出たナナちゃんの限定レアカードをあげるから。ね?」
 相変わらず魔法少女を嫁と宣言している庵は自分の宝物を泣く泣く私に見せてくれるから思わず苦笑が漏れる。はいはい、と庵をなだめると、すがりついてきた体をさりげなく引きはがした。
「カードはいらないけど、アンタのいうことは信じるから。犯人なら予想ついてるし」
「え、誰?」
 誰も何も。こんなことをするのはあの人しかいないじゃないか。というか今まで誰も気づかない方がおかしいんじゃないか? 私は心の中で毒づく。
 相変わらずあの人の遊び心は消えない。この夏で引退してようやく平穏な日々が過ごせるかと思ったら大間違い。あの人は忘れたころにひょっこりとやってきて難問を残して消えてゆく。それはそれはあんたはどっかの怪盗かとツッコミたくなる位。
 この間も接着剤事件のことでもうやめて下さい苦言をしたら、謝るどころか大正解だと褒められお手製のチーズケーキを頂いた。確かにケーキは美味しかったけど、うやむやにされたような気がしてならない。
 私はひとつ唸り声を上げる。これは啓示がそれともあの人の策略なのか。まぁ、どっちでもいいや。たぶんあの人も学校のどっかで暇潰ししてるんだろうし。
「じゃ、今日の活動はこの事件の犯人挙げて庵の無罪を証明すること。一番に犯人を捕まえた人はご褒美あげるから」
 ご褒美、の一言に部員たちの目がきらりと光る。ああ、なんてお手軽なんだろうと思いつつ、私は真っ先に走り出した庵の背中を見送った。


80フレーズⅠ「57.地図にない場所」のその後。次回の更新はあさってになります。

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2013

0903
畑仕事からの帰り道、軽トラを走らせていると反対側から自転車で向かってくる息子に出くわした。
「どうしたショータ、どこかに出かけるのか?」
「ちょっと思う所があってさ、海まで自分探しの旅してくる」
「そうか、気をつけて行ってこいよ」
「うん、行ってくるよ」
 息子は満面の笑顔で出掛けて行った。颯爽と自転車に乗って走る息子の背中を見ながら、俺は満足げに頷く。
 つい最近まで鼻水垂らし小僧だったのに、ずいぶんと成長したもんだ。苦悩を海にぶつけるとは。ああ青春だねぇ、いいねぇいいねぇ。
 なーんて思って数秒後、俺ははっとする。つい三年前までは実家のある海沿いに住んでいたから、今自分が住んでいる所が「海なし県」だということをすっかり忘れていたのだ。
 山に囲まれた田舎町は電車が一時間に一本しか通っていない。今から乗り継いで海にたどりつくまで早くて三時間、乗り継ぎが悪いと五時間はかかるだろう。俺は手元の時計を見た。ただ今夕方の六時。当然ながら今日中に帰って来れるわけがない。俺は慌てて軽トラをUターンさせ、自転車を走らせる息子を追いかける。並走しながら叫んだ。
「こら待てショータ! 今からじゃ海に行っても今日中に戻って来れんぞ。叫ぶんならせめて裏山のてっぺんでしとけ」
「えー、そんなの『らしくない』じゃんか。やっぱ心のもやもやは海で叫ばないと。裏山で叫んだらこだまが返って余計もやもやするじゃないか」
 息子の言葉に確かにそりゃそうだな、と俺は素直に納得する。が、すぐに首を横に振った。
「違う違う、とにかく今日はウチに帰るぞ」
 俺はトラックを降りると、全速力で追いかけ、息子を捕まえた。自転車から強制的に引きはがす。息子は助手席に、自転車はトラックの荷台に積み込んで運転席に戻る。息子のぶーたれた顔を見ながら俺は苦笑した。ずいぶん昔、俺も息子と同じくらいの年に家出を企てたことがある。あの時もこんな風に親父がトラックで追いかけ強制送還されたっけ。
「どこに思う所があるのか俺は知らないが自分が何者なのか、何をすべきなのかを考えるのは悪くない。その為に旅をするのもいい経験だろう。だがそれをやるなら夏休みだ。夏休みはもう終わっただろう? 自分探しを理由に学校を休むのはどうかと思うぞ。というより、サボりたかっただけだろう?」
「げ、ばれた?」
 図星と言わんばかりの息子の顔を見て俺は高笑いする。
「はっは、やっぱりそうか。流石俺の息子。思考回路がそっくりだ」
「……」
「それにな。海に向かって『バカヤロー』と叫んでも虚しいものがあるんだ」
「何それ。お、父さんも昔やったことがあるの?」
「そりゃあるとも」
 高校時代、帰宅部だった俺は放課後何もすることがなかったので、実家の近くにある海に行った。昔は釣りや磯遊びだけで一日が終わったが、それもせいぜい中学生まで。高校生ともなると、そこまでする気力はない。かといって遊ぶ所もそこしかないのでやっぱり俺は海に行くしかなかった。
 夏の終わりの海は最悪だった。海にはクラゲが大量発生していて泳ぐどころか近寄ることすらできない。でもって浜辺では県外から来た阿呆なカップルが愛してるとか、君の方が億倍綺麗だとかほざいていちゃついて、最後にゴミを捨てていったもんだから、こいつら海に沈めてやろうかと思った位だ。
「とにもかくも。心の中にもやもやがあるなら誰かに話せ。喋ることで気が楽になるってことがあるだろう?」
「でもさぁ、当の本人に喋っても意味ないっていうか――あわわ」
「何だ? 俺のことで悩んでたのか?」
「いや、そうじゃない。なんでもないって!」
 息子はそういって口を閉ざす。その口ぶりから息子の悩みをなんとなく悟った俺はそうか、と呟く。
「もしかして、盆に叔父さんたちと話してたのを聞いていたのか?」
「……」
「あんな戯言気にするな。いつも言っているだろう?」
「だけど。死んだ母さんが不倫してて、それで俺が生まれたのは事実なんでしょ? 俺、今まで通り家にいていいのかな?」
「当然だ。血の繋がりなんて関係ない。お前は俺の息子だと俺が認めたんだ」
 そう言って俺は息子の肩をそっと寄せた。

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プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すろーなもの書き人。今は諸々の事情により何も書けずサイトも停滞中。サイトは続けるけどこのままでは自分の創作意欲と感性が死ぬなと危惧し一念発起。短い文章ながらも1日1作品書けるよう自分を追い込んでいきます。
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